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運命に導かれ、文明開化の東京にやってきた少女イカルは、上野の博物館の古蔵で怪異の研究をしている老人の手伝いをすることになる。日本に誕生して間もない博物館を舞台に、謎が謎を呼ぶ事件を描くミステリアスな長篇。
明治16年、文明開化の東京にやってきた、大阪の古物商の娘・花岡イカルは、親戚のトヨの用事で上野の博物館を訪れた際、館長に目利きの才を認められ、博物館の古蔵で怪異の研究をしている織田賢司(= 通称トノサマ)の手伝いをすることになる。
トノサマの指示で蔵の整理を始めたイカルだったが、台帳と収蔵品の照合を終えた後、黒手匣(くろてばこ)という品物だけが何者かによって持ち去られたことが発覚した。いったい誰が、何の目的で盗んだのか? 隠れキリシタンゆかりの品とも噂される、この匣に隠された秘密とは?
明治前期の物語を書きたいと、ずっと思っていました。
近代化へと突き進む世の中のあちこちでまだ、科学と迷信が同居していたような、近世と近代がせめぎ合っていたような、そんな19世紀末の混沌とした空気に強く心惹かれていたからです。
書き上げてみて、あらためて、『博物館の少女』は、この時代の中でしか生まれ得ない物語だったのだと思いました。
これは、文明開化の東京のあやかし譚、そして、ゆれ動く時代の中で凜と生きる一本気な少女の成長譚でもあります。
満足のいく物語に仕上がりました。
富安陽子
ついに完成しました。
書き始めてくださってから早数年、その間にいただいた手書きの原稿は、完成したものの数倍もの分量になりましたが、そのかいあっての作品に仕上がりました。
児童文学はもちろん、時代小説や海外ミステリを長年愛読していらっしゃる富安先生の、物語作家としての力量が遺憾なく発揮されています。
興味をかきたてられる時代背景に、魅力的な登場人物たち。
これから本になった形で、初めてこの物語に出会う皆様がうらやましくもあります。どうぞご堪能ください。