ツチハンミョウは、「道教え」として知られる美麗な「ハンミョウ」と異なり、地味で目立たない控えめな虫です。その繁殖方法は独特で、4000個の卵から生まれる体長1ミリにも満たない小さな幼虫は、寄生先となるハチの巣にたどりつくため、いろいろな虫にとりついていきます。わずか4日という寿命の中、種の存続のために決死の旅をする幼虫たちの道程を、緻密かつ力強いタッチで描きます。
物語の最後では、ようやくたどり着いた巣の中で対峙する、2匹の幼虫たちが描かれます。そのすがたは、わたしたちにいのちのあり方について考えさせます。
ツチハンミョウについては『ファーブル昆虫記』にも記述がありますが、この本の主人公で日本固有種のヒメツチハンミョウについては、あまり知られていませんでした。著者の舘野さんは、その生態を解明すべく、8年にも及ぶ生態調査を行ない、その一部を明らかにしました。巻末の解説では、その調査のようすや、生態のくわしいようすを、臨場感のある写真を交えながら紹介します。
衝撃のデビュー作『しでむし』や『ぎふちょう』などのうつくしい細密画で知られる、著者渾身の新作絵本。
受賞歴:
舘野さんに連れられ、はじめて秦野の山を歩いたのは、2013年の初夏でした。見慣れた風景の林でも、這いつくばって目をこらすと、じつにたくさんの生きものが、それぞれに暮らしているすがたが見えてきます。おなじ林のなかに、膨大な数のいのちが同時に存在しているというあたりまえの事実を、そのときはじめて、実感をもって感じることができたのを覚えています。
『つちはんみょう』の主人公の幼虫は、1ミリにもみたない、芥子粒みたいな幼虫です。それは、地球全体、宇宙全体からみたわたしたちのすがたに近いかもしれません。そんな幼虫1匹1匹に、それぞれの旅、人生があり、死があり、そして生がある。そんなことを、舘野さんは深い慈しみをもって、ひたすらに坦々と描き出していきます。
この本には、舘野さんがつちはんみょうと過ごし、思考した歳月が地層のように積み重なっています。命とはなんなのか。そんな根源的な問いをわたしたちに想起させるような、とんでもない絵本ができました。衝撃のデビュー作『しでむし』、林の1年を描いた『ぎふちょう』とあわせて、ぜひご一読ください!
ある虫の、人間の知らないところで起きているドラマに今まで持ち得なかった視点を知り、感銘をうけました。これからも良い絵本を描き続けてください。応援しています。(6歳、8歳のお母さまより)
感動して息が止まりそうでした。10年かけてのご労作。絵もすごいですが、この虫の生きる姿を究められた情熱と根気力ハプロの研究者もウカウカしておられない。文も生きていますね。私もヒゲナガカワトビケラという川虫を50年以上追いかけています。いつの日か舘野さんにお会いできたらいいなあと祈念しています。(90代)
昆虫の世界で繰り広げられる厳しい生存競争が眼前に描き出され、言い様もない感動を覚えた。また、未知の世界を精緻なタッチで見せてほしいと願う。(60代)
あまりの細密な絵を見て館野鴻さんという画家、研究者としてのすばらしさを知り、今回コロナ危機にまた、じっくり読み直しました。この本は小学1年生になった孫に贈ります。(75歳・女性)