「アスペルガー症候群」ということばをご存知でしょうか? 最近、よく耳にするけれど、どのような特性をもった方をさすのか具体的には知らないなあ…という方、多いかもしれません。
このたび、偕成社では、「アスペルガーの心」というシリーズで、『わたしもパズルのひとかけら』『パニックダイジテン』という2冊の絵本を刊行しました。 作者のフワリちゃんは、9歳のお誕生日の2日前、アスペルガー症候群であることの本人告知を受けた女の子です。小学校4~6年生のときに描いたこの作品で、 フワリちゃんは自らの特徴を、絵と文でみごとに表現しています。
「アスペルガーはすてきだよ」。フワリちゃんは、自身の特性を前向きにとらえて分析をし、アスペルガーである自分に誇りをもち、前をしっかり見据えて生きている女の子です。「アスペルガーって?」と、すこしでも気になった方は、ぜひフワリちゃんの本を読んでみてください。
<アスペルガー症候群とは?>
アスペルガー症候群とは、「自閉症スペクトラムしょうがい」の一つです。社会性、コミュニケーション、想像力において『普通』とは違う個性的な特徴を持っています。主な特徴としては、自分語を作る、常同運動、パニックなどがあります。フワリちゃんの場合、小学校生活において一人一人の個性を活かす「日本の特別支援教育」というアプローチにより、自己理解・他者理解など多くの学びを得て心豊かに生きる力が育まれました。
<フワリちゃんてどんな女の子? 作者のフワリちゃんにきいてみました!>
<担当編集者にきいてみました! 〜「アスペルガーの心」の制作裏〜>
––––「アスペルガーの心」出版のきっかけは?
作者フワリちゃんのお母さんから偕成社宛てにきたメールが始まりでした。「アスペルガー症候群の娘が作品をいくつも書いています。日本の特別支援教育を受けながら、普通学級でのびやかに成長している娘の素直な思いを感じていただけるとうれしいです」小学生でアスペルガー症候群の告知を受けた本人が、そのときに描いた作品、ということで興味をもちました。送られてきたスケッチブックに描かれていたのは、ほぼ『アスペルガーの心1』そのままでした。心を掴まれまし た。信念をもったフワリちゃんの気持ちがぐっと迫ってくる、ユニークさもあわせもった作品。すぐにお母さんに連絡をとりました。フワリちゃんは、作品をたくさん描いていました。そしてもう一作「パニック」について、 理論的に描かれた作品を整理して、二冊同時に出版させていただくことに決めました。
––––特にこだわったところはありますか?
同じアスペルガー症候群の子たちが読みやすいものになるようにと、お母さんのリサーチや、フワリちゃんの意見を尊重し、レイアウトに気を使いました。
書体(文字の形)→くせのないわかりやすい形
文字の組み方→字と字の間は少しだけあけてほしい
文字の色→黒だとコントラストが強すぎて読みにくいので、茶色がいい
文字のバックには、少し色をしいてほしい。でないと読まずに飛ばしてしまいそう
デザインで使う色はフワリちゃんの色のイメージがあるので、参考にしてほしい、などなど。
デザイナーの高橋雅之さんは、とても真摯に対応してくださいました。
––––読者からの反応はいかがですか?
刊行後、当事者の子や現場の先生からいろんな感想をいただきました。
◎「これはオレの事が書いてある! オレはアスペルガー症候群だった!この本を担任の先生に持って行きたい!」(ADHDの男の子)
◎私の方が大人でアスペルガー症候群告知受け人(?)としても先輩やのに、私の方がこの「ダイジテン」に教えられるほど。パニックの種類、パニック時の対応など、ほんとにぜひぜひ、当事者でない方にも(方にこそ)読んで欲しい。どれも、すごい思い当たることが多くて。(元小学校教諭のアスペルガー当事者さん)
◎去年担任した3年生のクラスにいたアスペルガーの女の子。私は私なりに彼女の気持ちはだいたいわかっているつもりでいたのですが、まだまだわかっていなかったこともあったことをフワリちゃんに教えられました。学級会の時間なんか、彼女もカッカしていましたが、フワリちゃんも目をつりあげて怒っています。私は「もっと寄り添って、わかってあげなければいけなかった、つらい時間だったろうな」と、今この本を前にして、反省しながら、謝りながら、彼女の心と語り合ってます。(小学校教師)
◎発達障害のある甥も幼稚園、小学校、中学校と進んでも、まわりの子どもたちと上手にかかわれず、友だちがいませんでした。ですから、社会の大人や(ふつうといわれる)子どもたちが、発達障害のある子どもに対して、正しく対応できるように、フワリさんの絵本が役立つことをとても願っています。とてもわかりやすい絵本でした。(薬剤師)
––––さいごに、読者へのメッセージをお願いします。
この本を通して、いろんな子がいるんだよ、ということを伝えたいです。そしてアスペルガー症候群についての理解を深めてもらえたらうれしいです。
<竹田契一先生のことば>
アスペルガー症候群と診断された子どもたちは、よく暗闇の中を懐中電灯で照らしながら歩く不安なようすにたとえられます。懐中電灯の光が届く距離には個人差があります。
懐中電灯の光の中に見えている人とはコミュニケーションがとれるし、気持ちの理解もなんとかできるようです。しかし定型発達(発達上問題がない)の人のように昼間の明るさで360度見渡すことのできる状態で生きている人たちと比べると、そのハンディは大きいです。
(中略)
フワリさんのようにアスペルガー症候群と診断された子どもたちは、「アスペルガー症候群という特性」をもって生まれたのであって、障がいではありません。障がいは集団の中での無理解がきっかけで大きくなっていくことが多いです。
<フワリちゃんのお母さんからのメッセージ>
〜「アスペルガーの心2」あとがきより〜
小学校3年生で本人告知をして、フワリが自分の内面を語り始めてからというもの、私の認識は大きく変わりました。
私が困っていたんじゃない。フワリ自身が一番困っていたんだ。
(中略)
問題行動やパニックには必ず原因があり、その人に応じた落ち着かせ方があります。理解しがたい時もあると思いますが、長い目で見て、頭ごなしに否定せず、いったんその考えに寄り添ってみることも必要だと思います。新しい常識は私たちの世界を広げ、人生を豊かにしてくれます。