つれあいのタンダとともに、久しぶりに草市を訪れたバルサは、若い頃に護衛をつとめ、忘れ得ぬ旅をしたサダン・タラム〈風の楽人〉たちと再会、その危機を救ったことで、再び、旅の護衛を頼まれる。
シャタ〈流水琴〉を奏で、異界への道を開くことができるサダン・タラム〈風の楽人〉の頭は、しかし、ある事情から、密かに狙われていたのだった。
ジグロの娘かもしれぬ、この若き頭を守って、ロタへと旅立つバルサ。
草原に響く〈風の楽人〉の歌に誘われて、バルサの心に過去と今とが交叉するとき、ロタ北部の歴史の闇に隠されていた秘密が、危険な刃となってよみがえる。
「守り人」シリーズ10巻完結のあと、『流れ行くもの』(守り人短篇集)『炎路を行く者』(作品集)を番外編として発表。この『風と行く者』は外伝3作目にして大長編となる。
巻末にあとがき「息を吹きかえした物語」とNHK大河ファンタジー「精霊の守り人Ⅱ 悲しき破壊神」演出の加藤拓による解説を収録。
ひょっこり帰ってきた物語
どんぶらこ、どんぶらこ、と川を流れてきた巨大な桃を拾ったら、中から赤ちゃんがでてきて、突如、育てることになってしまった、お爺さんとお婆さん。
とってもうれしかった半面、正直、かなり、うろたえもしたのでは、と、
大人になってから、思うようになりました。
隣近所も、ええ? なにがどうして、どうなって、今頃、子どもが出来たんだ? と、思ったでしょうし。
『風と行く者』は、どんぶらこ、と流れてきたわけではなくて、実は、かなり以前に書き始めたものの、途中で書けなくなっていた物語なのですが、
それがなぜ、守り人シリーズ完結してから何年も経って! 短編集ではなく長編で、しかも、バルサのその後も書いてあるような物語が、今頃、ぽこっと世に生まれ出ることになったのか。
それは、ですね、いくつかの巡りあわせがありまして、その「巡りあわせ」が書かせてくれた、というのが正直な実感なのです。
その、「巡りあわせ」については、あとがきで書きましたが、私は本当に、プロの作家としての技術で物語を書いているというよりは、人生の道筋で行き会った経験に書かせてもらっているのだな、と、今回、つくづく感じました。
それにしても、完結しました、と言った後で長編の物語を世にだすというのは、やはり、なんとなく恥ずかしいものですが、突如桃を拾ってしまったお爺さん、お婆さんと同じく、突然、我が心にやってきてくれて、再び芽吹き、育ち始めた物語ですから、大切に心を込めて育てました。
バルサ再び、であります。
楽しんでいただければ幸せです。
『天と地の守り人』三部作完結から11年。『流れ行くもの』から10年、『炎路を行く者』から6年、NHKドラマ化を経てあらわれた「守り人」シリーズ外伝は、シリーズ最大の大長編。バルサの今と20年前が交錯します。軽装版には、カラー口絵とあとがき、そして解説が付きます。