





「やと」とは「谷戸」とも書き、なだらかな丘陵地に、浅い谷が奥深くまで入り込んでいるような地形のことをいいます。
この絵本では、東京郊外・多摩丘陵の谷戸をモデルに、そこに立つ一軒の農家と、その土地にくらす人々の様子を、道ばたにつくられた十六の羅漢さんとともに、定点観測で見ていきます。
描かれるのは、明治時代のはじめから現代までの150年間。
長い時間、土地の人びとは稲作、麦作そして炭焼きなどをしてくらしてきました。昭和のなかばには戦争もありましたが、それでもつつましく、のどかなくらしをつづけてきました。
そのいとなみが大きく変化したのは、昭和40年代からです。この広大な土地が、ニュータウンの開発地となりました。丘はけずられ、谷は埋められました。自然ゆたかだった丘陵地は、あっというまに姿を消しました。そして昭和のおわりごろになると、団地やマンショがたちならぶニュータウンへと姿をかえました。大地にねざした稲作や炭焼きの仕事は、もうほとんどなくなりました。
しかし、新たに多くの人がここへ移り住み、町はまた活気をとりもどします。平成となると、ニュータウンができてからも30年以上がたち、自然豊かでのどかだった村は、落ち着いた郊外の町となっていきました。
ここに描かれた村にかぎらず、現在の私たちのくらす町はどこでも、かつてはゆたかな自然あふれる土地であったことでしょう。今のような町になる前は、どのような地形で、どのような人びとがいて、どのようなくらしがいとなまれていたのでしょうか。これを読みながら、みなさんのくらしている町と、くらべながら見ていくのもいいでしょう。
巻末には、8ページにわたって、この絵本に描かれている農作業とその道具、村の習俗や人びとの様子などをくわしく解説しています。
受賞歴:
この本の舞台となっている「やと」は以前私が10年程、自然観察の指導や私自身の蜘蛛の研究に通った多摩丘陵によく似ています。いやそのものでしょう。私が通いはじめた頃はごく自然な場所でしたが今では殆どが住宅地やタワーマンションになってしまいましたが、これも世の中の移り変わりとして受け止めてゆくしかないのでしょう。地域の変わり様がよく描かれている作品です。(読者の方より)
図書館で孫の本を探している時、ふと目に付き開いたところ、なつかしい情景がありました。私が子供の頃、周辺にはこの様な景色が多く、農作業の手伝いでヒビや赤切れの手が痛々しい友達もいました。裸足はあたり前。ヤカンから直に水を飲んだり近所の柿やイチジクを取って食べたり伸び伸びと過ごしたことが思い出されます。実家も築65年。祖父母の家は100年以上なので年上の人たちは皆亡くなり、昔の様子を知る人がいなくなり、語り部となった私は子供や孫に伝えるべき事は何だろうと思案するこの頃です。(70代)
新聞の広告を見た時、戦争中小学生で田舎に疎開した時、目にした風景、田んぼや畠、農具のいろいろ、生活の道具等がなつかしく、いろいろ思い出されました。話だけでは伝わらないけど、こんなに丁寧に書かれていてびっくりです。素晴らしい!!今は長生きの時代、これから先、楽しみながら大切に読ませていただきます(想い出と共に)。(80代)
「やと」と言うなつかしい言葉に引かれて絵本を手に取りました。私の実家は多摩市馬引沢に有ります。山の中の畑や田んぼの中で育ち、区画整理をへて、多摩ニュータウンが造成されるのを目の当たりにしながら大人になりました。とても懐かしいです。出会えて良かった素敵な絵本です。(50代)
新聞の広告と書評を見て、はじめて直接見ないで買った絵本だった。だが届いたものは想像どおりていねいにえがかれているものだった。「十六らかん」はじっとしていなくて動きが豊かなのが意外だった。かさ地蔵のようです。最後に「十六らかん」が屋根つきの家に納まり、ホッとした。安野光雅の旅の絵本を思い出しました。買ってよかったです。(60代)
「やと」と言うなつかしい言葉に引かれて絵本を手に取りました。私の実家は多摩市馬引き沢に有ります。山の中の畑や田んぼの中で育ち区画整理をへて、多摩ニュータウンが造成されるのを目の当たりにしながら大人になりました。とても懐かしいです。出会えて良かった素敵な絵本です。(50代)]
初めて図書館で借りて(リクエストが多く、大分待ちました)、いっぺんで気に入って、即、書店で購入。何といっても懐かしく、多摩ニュータウンにも住んでいたので開発の様子がよくわかりました。16らかんの表情が豊かで、動物や植物との触れ合いに心おどります。バートンの『ちいさいおうち』の日本版といえるでしょうか。ひょっとしたら『ちいさいおうち』よりスケールが大きいかもしれませんね。何度でもじっくり見たい絵本です。友だちにも紹介したいです。(60代)
初めまして、私は、1946年生まれの初老の男性です。この絵本は、産経新聞の広告で目にしました。自分たちが幼少のころは周り一面が田んぼで特に夏の時期になると部屋に「蚊帳」を張り寝ていましたが、その当時は蛍がたくさんいて蚊帳の中に離して楽しんでいました。それぞれのページで昔の生活を思い起こさせてくれる優しい絵本です。この絵本を利用し孫たちとの会話も盛り上がっています。今の我が家は30ページとそっくりです。大切に、末永く自分の宝とします。(70代)
読み進めると、丘の向こうからやってくる都市化の波に切なくなりますが、ラストページで、「今の私がいるこの地も昔はこの通りに進んできたのだ」と気づかされてはっとしました。じわりとくるステキな本でした。ありがとうございました。(40代)
多摩地域の変わりゆく様子を絵本で見たくて買い求めました。成人してから住みはじめた東久留米市も40年ほどの間に農地が宅地化され大きく変わりつつあります。23区内でも目黒区や世田谷区には50年以上前には畑やこえだめがありました。写真や動画より絵本で風景の移りかわりを見るほうがノスタルジックな気持ちが増します。すてきな本に出会えて幸せです。(60代)
忘れてはならない日本の原風景が丁寧に温かく描かれ、文章も子どもへ届く言葉が紡がれています。何より親である私自身が、何度も読み返し、子どもの頃を想う素敵な時間を過ごさせていただいています。「やと」の響き、永遠なれ!(50代)
まず作者の執念みたいな物を感じました。実は私は団地で結婚生活をスタートさせた世代です。場所は愛知県の高蔵寺ニュータウン。この本の後半と重なります。私たちにとっては丘陵にあるニュータウンは自然そのもの(都会そだちだったから)でした。人の暮らしを細かいところまで見逃さず知らせて下さり本当に楽しかった。これからのご活躍を祈ります。(70代)
本当に絵本(絵を読む本)ですね。細かいところまで年代が経つにつれ変化していく様子が描かれていて、すごい!!と思いました。田舎育ちの私にはとても懐かしい風景で農作業の様子、農具、働いている人、周囲の景色、動植物、植木、遠景などなどすべて年代に合わせて変化が描かれていて、何回も何回も前のページへ戻り、又、進んで、又戻りと、じーっくり見ました!まだまだ見落としてるところがあると思います。作者の方の根気、描かれる姿勢に脱帽です。この本はこれからもずっと側に置いて、いつでも手にとって読みたい(見たい、眺めたい)本で、この本に出会えてよかったです。(80代)
小学生向きと有りましたが、カタログの絵がとてもなつかしく…注文致しました。良かった!!私は多摩市の出身ではなく狛江市ですが、似た様な光景が多々有りました。開発の為とは言え、花々や動物等多くの物が犠牲になったとしたら申し訳無い思いです。(読者の方より)
外出もままならないこの2年、久しぶりに主人と買い出しに出た先で、本屋さんに約1年ぶりに入りました。店頭に平積みになっていた表紙を見たとたん主人が「ウチにそっくりだなあ…」と手にとり、中を開き、即購入。多摩センターの近くに住んでいることもあり、とても架空とは思えないほど主人の記憶と重なったようで1ページ1ページ隅々まで見ては「この頃はね…」と語ってくれました。家の裏山に一昨年まで狸の家族が住んでいましたが、公園開発でいなくなってしまいました。いつまでもこの絵本を家の家宝として語りつぎたいと思っております。(40代)
書店の店頭ではじめて拝見して、このような本がずっと欲しかったのだと思い購入しました。私は多摩センターに住みはじめて18年になります。当初とても緑が多く自然が多い環境をとてもうれしく思っていました。その後、雑木林などを歩いているときに見つけた、数体のお地蔵さんが一ヶ所にまとめてまつられているのをみつけとてもびっくりしたのを覚えています。パルテノン多摩の展示などでニュータウン計画で更地になった航空写真をみたときに今目にしている緑も計画されつくられたものだということに信じられない思いでした。昔の多摩の風景、くらしを身近に感じられるこの本は、今の多摩の風景までのつながりと、よいわるいでは語れないものを伝えてくれていると思います。(40代・女性)
図書館で絵がきれいで何気なく借りてきましたが読みきかせを子どもにしましたら、8才(小3)の息子が布団にもぐって感動して泣いてしまいました。また絵本を返却するのが悲しいとのことで、このたび購入しました。歴史や鉄道が好きな息子にとてもささった先品となりました。祖父母が東京に住んでいるので、行った時には多摩モノレールに乗って、やとの風景を子どもと改めて思いおこしたりしています。日野でひのみやぐらを発見したり、丘の形をあれこれと考えたりしています。あたたかい本を書いて下さりありがとうございます。ずっと大切に読みます。(8歳)