キツネは、ヘビと冬ごもり前のお別れをしなかったことを気にしています。キツネが友だちについておおいに悩むシリーズ7作目。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
子どものころ。
あこがれのミヨちゃんに「明日、おうち来てね」と地図を渡されました。当日はあいにくの雨でしたが、ミヨちゃんです。雨も風もなんのその、ズボンのすそをまくり、番傘をにぎりしめ、地図の家へ急ぎました。
ここだろうと訪ねた家はちがっていました。小学生の書いた地図です。横なぐりの雨にぬれながら途方にくれていると、桑野くんの声がしました。
「内田くん、迎えにきたばい」
私の頭は、雨の町よりも白くけぶりました。
(なんで、桑野くんが、迎えに来たと?)
けぶりながらもついて行くしかありません。桑野くんは学年一の秀才でした。ということは私があまり口を利かない人ということです。学校でも彼が近づいてくると、物陰にすっとかくれました。
(おりゃ、勉強ん話はできんもん)
ミヨちゃんの家に着くと……。知っている顔でいっぱいでした。
(おれだけじゃなかったんだ)
少年はサビシイノココロにつつまれました。
でも当時にしてはめずらしいケーキに紅茶。歌と、おしゃべりもはずんで。気がつくと、私は桑野くんと仲良しになっていました。たがいの腹をつつきながら笑いころげたり。あの日のことを思い出すと……。ミヨちゃんの声が聞こえてきます。
「えー、ともだちやです。ともだちは いりませんか」
きのうも、その桑野くんから電話がありました。
「麟ちゃん、元気ね」
私はこころのなかで、
「あいつもともだち、かァ」とつぶやきました。(内田麟太郎)