上橋菜穂子の実況レポート
NHKドラマ 「精霊の守り人」

Vol.05 「守り人」シリーズドラマ化記念
原作者に質問!

2017/3/24

2017年3月15日から20日の6日間、ドラマ化を記念して、原作の上橋菜穂子さんへの質問を募集いたしました。お送りいただいたバラエティゆたかな質問のうち多かったものから、上橋先生にお答えいただきました!(偕成社編集部)


 みなさん、たくさんのご質問をお寄せいただき、どうもありがとうございました。
 私の作家活動や私生活についてなど、ドラマに関係のない質問も多くいただきましたが、今回はドラマ化記念の企画なので、ドラマに関するご質問だけ選び出しました。
 中でも多かったご質問について、大きく5つにまとめています。
 類似のご質問の中でも「問い方」がわかりやすいな、と感じたご質問を、代表としてピックアップさせていただき、それにお答えする形にしました。

上橋菜穂子


1.「ドラマの登場人物について」

「娘と一緒に毎週ハラハラしながら見ています。
先生が、特に気に入っているキャラクターは誰ですか?
ドラマでは、かっこいい俳優さんばかりで、みんなかっこよすぎて嬉しい悲鳴です!(^^)!
綾瀬さんのバルサと真木さんのシハナも恰好良かった!!
一人には絞れないかもしれませんが、お聞かせください。
ずっと見ていたいドラマなので、第三部で終わってしまうのが悲しいです。」
(ショコラさん、40代)

 うわ、困ったなぁ。誰、と絞ることが難しいくらい、それぞれ好きです。
 もちろん、綾瀬バルサが大好きですが、東出タンダも、板垣チャグムも、松田ジンも、鈴木ヒュウゴも、高良ラウルも……だめだ、やはり、全員になってしまう。絞り切れない(笑)

 ただ、子役さんたちには驚きましたね。
 Ⅰシーズンでチャグムになってくださった小林くん、バルサの子ども時代を演じた横溝さんと清原さん、Ⅱシーズンでアスラになってくださった鈴木さんには、心底驚きましたし、子役というよりは、少年役ですが、チキサを演じた福山くん、本当に素晴らしいと思いました。

***

「ズバリ聞きます!
どなたにお姫様抱っこされたいですか?
タンダ、ヒューゴ、はたまたジン?それともラウル?」
(およねさん、50代)

 あははは! これまた、全員っ!
 でもね、皆さんにお目にかかっているので、そうなったらという想像がリアルに出来るのですけど、多分、お姫様抱っこなんてされたら、10秒たたずに、恥ずかしくて逃げちゃいますよ、私(笑)
 テレビの向こう側にいる姿より、ホンモノは、もっと、びっくりするような色気があるのです。正面からまともに顔を合わせているのも、なんだか気恥ずかしくなってくるくらいです。
 ですから、お顔を見ないで済む「おんぶ」だったら、大丈夫かも、ですが。

 あ、そうそう板垣くんだけは除外かなぁ。背が高くなって、大人の顔立ちになってきていますが、でも、まだ、どこか華奢なんです。重いオバサンを抱っこさせちゃ、申しわけなさすぎます(笑)

***

「私が上橋先生にお聞きしたいことは「もし、上橋先生ご自身が、ドラマに出演されるとしたら、どのような役の人物として出演したいか」です。」
(道なき道の道半ばさん、10代)

 盗賊になって、でっかい刀を振り回して、綾瀬バルサと闘ってみたかったなぁ。あっという間に斬り伏せられちゃっただろうけど(笑)

 ヒッチコックが有名ですが、原作者が画面に紛れ込んでいるというのは結構あるので、タルシュ兵に追われて逃げる庶民エキストラかなんかで登場させてもらおうかなぁと思ったのですけど、
 「エキストラでも、メイクや衣装に時間がかかるので、早朝に来ていただき、風がビュービュー吹いている超寒い中で、コーンスターチまみれになって耐えていただくんですが……」
 と、言われて、即座にあきらめました(笑)


2.「ロケ地、舞台設定、どう思いますか」

「ドラマは一部北海道の根室で撮影されたとお聞きしております。
上橋先生は去年テレビで釧路にも行かれていたと思いますが、精霊の守り人の異世界感と北海道、イメージにあいましたか??」
(ペンネーム、年齢なし)

 私は、釧路は二度訪ねています。最初は、『鹿の王』の森林イメージを得たくて、相棒につきあってもらって釧路から阿寒湖を巡りました。二度目は、ご指摘いただいている「SWITCHインタビュー 達人達」の撮影で訪れました。

 北海道の自然は良いですね。やはり、本土よりもスケールが大きくて、どことなく、ウスリー・タイガなどと繋がっている感じがあるので、「守り人」の世界にはぴったりだなぁと思いました。

***

「ドラマのロケ地が、どこもすべてが想像していた以上にピッタリなところばかりで、感激しています。
上橋先生のご意見も入っているのでしょうか。」
(ベルさん、50代)

 世界観に関しては、最初の頃の打ち合わせのときに、新ヨゴは、こういう風土、ロタはこういう風土……というようなことを制作者側に綿密にお伝えしてあります。
 でも、新ヨゴ以外は、すべて日本とはかなり異なる風土なので、どうするのかなぁと、思っておりました。
 いざ、放送が始まってみると、ほとんどが日本でロケをしているのに、日本に見えない! ということに、純粋に驚きました。
 とくに、チャグムたちが捕虜になって閉じ込められていたサンガルの風景。
 「海と空、岩のスケールが、人間の大きさと比べてあまりにも巨大で、びっくりしました。あれ、縮尺などを変えてCG合成したのですか?」
 と、プロデューサーに尋ねたら、
 「いえいえ、あれ、まんま仏ヶ浦です。セットはチャグムたちが入れられていた虜囚小屋だけですよ」
 と、言われて、びっくりしました。
 ロケハンをする方々の目って、すごいなぁ、と思いましたし、日頃思っているよりずっと、日本の風景は多彩なのだと、目を開かれた思いでした。


3.「ドラマと原作での設定の違いについて」

「原作には各国ごとに言語がありましたがドラマではないという、設定になっているのでしょうか?言語の壁というものが原作では多く表されていたように感じます。指輪物語、ホビットの映画では共通語があり節々他の言語も使われていた所もありました。具体的な話し方が原作にのっているわけではないうえ何ヶ国も話すというのは無理を承知ですが、どのような設定になっているのかということをお聞きしたいです。」
(みゅーみゅーさん、10代)

 実は、最初は、タルシュ帝国だけでも全員外国人にして言語も変えようか、という案も検討されたのですが、そんなことをすると、あまりに煩雑過ぎて、ドラマに没入することを妨げてしまう、ということで、なしになりました。
 あの世界には「共通語」というものがありませんので、徹底してやるとすると、すべての言語をつくり、日本語字幕にする、ということになりますから。
 原作では、そのあたりの背景説明ができますが、ドラマで説明をしていたら、これまた、猛烈に煩雑で、ドラマの流れや勢いを消してしまいますし。
 ただ、日本人は、「日本人は日本語を話す」という状況に慣れてしまっているので気づき難いのですが、ひとつの国が多言語であったり、ひとりの人間が多言語を操ったりするのは、珍しいことではないのですよね。
 原作を書いていたとき、私はロタとカンバルは、もともとかなり言語的に近いと考えていました。ヨゴは後から入ってきた人々ですが、長い間、隣接しているロタ、カンバル、サンガルと交流がありましたから、とくにチャグムのような外交をせねばならない立場にある者は、それらの言葉を学んでいます。
 唯一、完全な異言語はタルシュ語ですが、タルシュは帝国ですから、支配者は多民族を抱える国家の長で、多くの言葉が理解できてもおかしくない。とくに、ラウルはヨゴを征服していますしね。
 というわけで、彼らが自然に会話していても、さほど問題はないかな、と思っています。


4.「ドラマと原作のイメージにまつわるご質問」

「ドラマで表現される風景や、人物・食べ物の見た目などが上橋先生のイメージと違った場合、どうされているのですか?」
(みさとさん、10代)

 ドラマ化やアニメ化では、私は、初期の設定部分で、がっつりと関わります。じっくりと話し合いをさせていただくのです。
 何しろ、私の頭の中にしかない人物、出来事、世界を表現してもらうのですから、そこのすり合わせは綿密に行います。同時に、物語の魂ともいうべき、「軸」になっている様々な認識についても、お伝えしておきます。
 制作者側が作りたいドラマ、こういう人物として描きたい、と、考えている、その感覚に納得できなければ、しつこく話し合いを持ち、双方が納得できるところまで、落としどころを探ります。
 そして、納得できたら、その後は、「お任せ」します。
 ドラマと小説は作り方、魅せ方が違いますから、原作に囚われ過ぎると、ドラマやアニメとしての命が、か細くなって、消えてしまう可能性があるからです。
 そうやってお任せして、出来上がってきた世界は、私が原作を書いていたとき、目の前に見えていた風景や光景とは随分違う、というところは、当然のことですが、結構あります。
 例えば、ロタのツーラム港の市場や宿屋は、私がイメージしていたより、かなり湿気が多くて猥雑な感じになっていましたし、全体的に、私がイメージしていたより、時代が少し遡っている感じですね。
 ただ、それが嫌か、と問われるなら、私は、さほど嫌ではないのです。
 ドラマも、アニメも、多くの他者(私以外の人たち)が制作者となって、イメージを作っていくわけですから、私の頭の中にある風景と寸分変わらぬものが出来るはずがなくて、それがまず、映像化の「大前提」なのだと思っています。
 それに、もともと、小説って、そういう素材なのですよ。
 漫画家の場合は、絵という、かなり具体的な表現方法で、他者にイメージを伝えていますが、作家は文字という記号の連なりでイメージを伝えていますから、伝わるイメージは、そもそもが、かなり多様なのです。
 読者の皆さんが、よく映像を見て「原作とイメージが違う」と、おっしゃっていますが、その方のイメージと、他の読者の頭の中にあるイメージを比べたら、きっと、「え! こんなに違うの?」と、驚かれるはずです。むしろ、ぴったり同じなんてことがあったら、それはテレパシーかなにかで脳内念写されたに違いない(笑)
 ですから、私にとっては、むしろ、自分が書いた物語が、他者に、どう読まれているのだろう、どうイメージされているのだろう、ということの方が大切なのです。
 自分の描写がどう伝わっているのか、他者が私の物語のどこに惹かれるか、それがわかりますから。
 私が書いた物語を読んで、アニメ「精霊の守り人」監督の神山さんがイメージしたバルサ、ドラマ演出の片岡さんや加藤さんがイメージしたバルサは、どんな人であるのか。
 そして、彼らが、「守り人」で映像を作ろう、と思ったとき、どんなイメージで「守り人の世界」を築き上げるのか、それを見てみたいのです。
 アニメの方が良い、ドラマの方が良い、など、様々な声がありますが、私にしてみれば、イメージの差異で言うなら、どちらも私自身のイメージとは違うところもあり、同じところもありますよ。だからこそ、面白いのです。人の想像力の多様性が見えて。

 むしろ、私が大切だと感じているのは、「その作品の中での統一性」です。ドラマ版で、ロタの技術レベルをこのくらい、と設定し、それに従って建築物を築き、市場の雰囲気を出すのであれば、そこに齟齬がない、なめらかな世界観を見せてもらえたら、素晴らしい、と感じます。
 今回のドラマは、現代日本では、この俳優さんたちと、この制作陣たちでしか出来なかった最高のものだと感じています。

***

「ところで、個人的には、劇中で登場する町並み、屋内の様子など、全体的に想像していたよりも「狭い」のだなと感じています。(特に感じたのはロタ祭儀場ですが、これは原作のジダンともまたそもそも違う設定でしょうから)
もちろんそれもドラマとしての表現として(あと実際に登場人物がその中で動いているのをみてなるほどと)納得しているのですが、上橋先生からご覧になって、ドラマの舞台のスケール感などは、どういった風に感じられるでしょうか。お伺いできれば幸いです。」
(夏みかんさん、20代)

 あ、ロタ祭儀場は、私も狭いな、と思いました。宿屋の部屋も。
 ただね、ロタの宿屋、実際のスタジオのセットは、もっと狭かったんですよ。だから、映像になったものをみたときは、広く見えて驚いたくらいです。
 日本のスタジオの中では最大級に広い場所で撮って、さらにエフェクトをかけても、これ以上はなかなか、広さは出にくいのかもしれませんね。
 日本には「ロタ祭儀場」をイメージさせるような遺跡はありませんし、風雨に晒される屋外で巨大なセットを組み立てて、何日も何日も撮影するというのは難しいでしょう。
 その一方で、「狭さ」を逆手にとって活かす工夫が生きたな、と思ったところもありました。閉塞した空間の中で、瞬時に、石像が巨大な樹に変わったとき、ぎゅっと凝縮された異世界が迫ってきた感じがして、演出家の才能を感じました。

 「狭い」と感じたのは祭儀場と宿屋だけで、あとは、日本で撮っているとは思えないほど広大な感じがでていて、それが私にはとてもうれしかったです。
 風が渡る野を行くバルサは、やはり、良いです。

 ちなみに、11月から放送される最終シーズンで、『闇の守り人』が描かれますが、槍舞いが行われる洞窟の広さは、私のイメージとぴったりで、驚きました。お楽しみに。


5.「ドラマの中で好きなシーン、登場人物は?」

「ドラマ化されて、御自身の思い描かれていた世界感と、ピッタリ当てはまった国(の描き方)や、シーン、登場人物はあり(いらっしゃい)ましたか?
または、思い描かれてたイメージとは違っていても、感動された国(の描き方)や、シーン、登場人物はあり(いらっしゃい)ましたか?」
(Purityさん、40代)

 まず、登場人物はもう、本当にみな、私にとっては最高のキャスティングです。
 例えば、ラウル王子などは、私が描いた人物より若く、印象も違いますが、このドラマの構成の中では、ピタリとはまっています。
 このドラマは、師弟や親子(血が繋がっていなくても)など、年齢や民族、立場が違う人々の繋がりを大切に描いていて、それぞれが成長(変化)していく姿も描くので、全体的に若くなっていますが、それもまたドラマに魅力を与えていると感じています。

 シーンなどで、これは、同じ! と感じたところを思いつくまま挙げるなら、Ⅰシーズンの、橋の下のトーヤとサヤのところにバルサとチャグムが転がり込むシーンから、タンダの小屋、狩穴暮らしなどはもう、本当に、私の頭から抜け出してきたのでは、と、思うほどでした。
 Ⅱシーズンでは、サンガルの海賊船、とくにセナの船のシーンなどは、びっくりするくらい私のイメージに近かったですね。
 Ⅱシーズンは全体的に、世界に慣れてきた分、演出の方々が繰り出していくドラマの躍動感がスケールアップして、自分のイメージとのギャップはありましたが、そのギャップは違和感ではなくて、新鮮さに感じられました。
 お、そうやるのか! という、彼らならではの技を見せられた感じ。

 原作とは違うのに、身体が痺れるほど感動したのは、7話「神の守り人」のクライマックスです。
 私は、タンダが落下してくるアスラをつかまえ、チキサとアスラとタンダが落ちてくるのを、バルサやスファルたちが、枝などを切り払いながらたすけるという、かなり現実的な作業を描いたのですが、ドラマでは、それまで石像が見えていたところがいきなり巨大な木に変わり、バルサがアスラを抱いて落ちていくと、ナユグの透明な水面がそれを受け止めるシーンになっていました。
 ゆらめく美しい水の中を、ゆっくり落ちて行ったふたりは、やがて、これまで犠牲になった多くの屍の上に横たわる。
 あれを見たとき、私は、神話を見た、と思いました。

***

「今まで、シーズン2まで、たくさんのシーンがありましたが、上橋先生の印象に残っておられるシーン、ベスト3(ベスト1でも)をお聞かせいただきたいです。」
(Purityさん、40代)

 好きなシーンはたくさんあって、甲乙つけがたいですし、Ⅰシーズンから全部挙げると数えきれなくなってしまうので(笑)、印象の新しい、Ⅱシーズンから、好きなシーンをどどっと挙げてみますね。

 根性の卑しい商人たちを叩き伏せて小屋から出るバルサの、虚しさを秘めた静かな顔。成長したチャグムと二ノ妃のシーン、幻影に惑わされまいと目をつぶってカシャルを撃退するバルサ、アスラを諭そうとするチキサの静かな言葉。
 鷹を飛ばすスファル、猿を肩に乗せるシハナ。
 「これは幻影だ」と言いながら、バルサを抱きしめ、「行け!」と言うタンダ。
 自分の過去を思いながら、アスラに、幸せに生きていいんだと言うバルサ、「愛情だけで幸せになれるほど、この世は簡単ではないけどね」というマーサ。
 ヨーサム王やトーサとチャグム、孤軍奮闘してチャグムを逃がすジン、帝国というものの現実について語るヒュウゴ。
 早くに父に死なれ、兄弟ふたりで苦労したなぁ、という語り合うヨーサムとイーハン。母の幻影を見せてアスラを篭絡するシハナ。
 チャグムを巧みに追い詰めていくラウル王子。私は逃げようと思う、と言ったときのチャグムの表情。
 アスラの葛藤と、そのすべてを映す表情。横たわるアスラを見つめて、涙を流しながら語りかけるバルサ。
 チャグムが生きていることを伝えにくるジン、タンダ、バルサの邂逅と、用心棒は引き受けたと二ノ妃に伝えてくれ、と言い、行って来るよ、とタンダに言うバルサ。
 バルサと、セナ、ヒュウゴの邂逅。

 この他、アクションシーンは全部好きですが、リピートして何度も観ているのは、7話「神の守り人」で、テーマ曲が流れる中で激突するバルサとシハナ、8話の盗品売買の連中と死闘を繰り広げるあたりから、ラストまで。
 そして、25日に放送されるⅡシーズン最終話終盤の、バルサの死闘です。

 おお、いっぱいだぁ(笑)。でも、まだまだありまっせ。書きませんが。

 というわけで、ひとまず、これにてお答え終了とさせていただきます。
 たくさんのご質問、本当にありがとうございました!

2016年3月より放送予定 NHK 大河ファンタジー 「精霊の守り人」原作2016年3月より放送予定 NHK 大河ファンタジー 「精霊の守り人」原作