上橋菜穂子の実況レポート
NHKドラマ 「精霊の守り人」

Vol.04 天井がある港町

2016/12/26

 今年は様々ありまして、実況レポートが滞ってしまいましたが、あと一か月ほどで新シリーズ開始なので、慌てて、今年の実況を書いております。

 時は4月(……もう半年も前。夏休みの宿題を夏の終わりに書く子どもより、ひどいですね)、「先生、ロタ王国のツーラム港のセットが出来上がりましたよ。見にいらっしゃいませんか?」と、プロデューサーの海辺さんに誘われて、久しぶりにスタジオを訪ねました。

 毎度のことながら、ドアを開けると、そこは別世界。
 今回は、目の前に、巨大な船が、ど~ん! と、あって、その向こうには港町……。
出迎えてくださった、美術の山口類児さんと、海辺プロデューサーが、
「ツーラムにようこそ。ご案内しますよ。足元に気をつけてくださいね」
 と、観光ガイドさながらに、私たちを案内してくださったのですが、細く曲がりくねった路地には、異国の品々がぶら下がり、歩くと土埃がたち、本物の街そのもの。行き交うエキストラさんたちの衣装も、顔の色も様々。
「昨日はサンガル人が多かったんですがね。彼らは、みんなガタイが良いんで、刺青が映えて、かっこよかったですよ」
(うーむ、昨日はサンガル人が……などと言われながら、ツーラム港の中を歩く日がくるとは思わなかったな)と、思いながら歩いていくと、やがて、大きな炉の周りに様々な食べ物が刺さっている場所にでました。
「ここが、タンダが泊まっている宿屋の食堂なんですよ。露天ですが」
 なるほど、食堂といわれれば食堂。でも、ぶら下がっているモノが奇妙。魚の干物ならぬ、爬虫類(トカゲ?)の干物やら、ワニやらが、ぶらんぶらんしています。
 つい先日(12月15日)、記者用試写会があって、ヒュウゴ役の鈴木亮平さんが登壇されたとき、「ツーラム港のセットがすごかったんですよ。アンコウがぶらさがってて、え? これ本物? と思って、ツンツンしたら本物で、指が生臭くなっちゃって……」と話しておられましたが、まったく、その通りの有様でした。
 見上げると、土造りの建物の窓には、複雑な模様が透かし彫りになっており、家々の軒先に掛かっている布は、日本ではあまり目にしないような色彩で、歩いているうちに、なんとなく酔ったような感じになりました。
「模様や、色合いまで、異文化を意識して造られたんですね」
 と、つぶやくと、山口さんたちが、うなずきました。
「様々な場所を参考にして、どこでもない場所を作り上げました。実際に、シルクロードやネパールにも行ったんですよ」
「虫の料理も食べたんだけど、あれは大失敗で。虫の料理が食べられると聞いて、じゃ、ぜひ、と頼んだら、大皿に山盛りにでてきて。こちらは、ほら、一口、二口、どんなものか味見したり、写真に撮ったりするつもりだったんで、どうしよう、この大量の虫、と茫然としていたら、運転手が、厳しい口調で、全部食べろ、と言うんです。
 彼は敬虔な仏教徒で、食べるために殺生をしたのだから、すべて食べなくてはならないと。
 みんなで、がんばって食べましたが、それ以降は、虫料理オーダー禁止ね、と、みんなに伝えました」
 私もフィールドワークで、似たような経験をしたことがありますが、ひとつのテレビドラマを作る作業に、それほどの時間と労力を費やしている彼らの姿勢に、つくづく頭が下がる思いでした。

 見上げれば、遥か頭上にはスタジオの天井。
 でも、視線をもどせば異国の街。
 またしても、不思議な経験をさせていただきました。


*現在発売中の『増補改訂版「守り人」のすべて』には、原作者の目からドラマセットの秘密にせまる、上橋菜穂子さんとドラマ美術の山口類児さんとの対談や、新短編「天への振舞い」を収録しています。ぜひチェックしてくださいね。(偕成社編集部)

2016年3月より放送予定 NHK 大河ファンタジー 「精霊の守り人」原作2016年3月より放送予定 NHK 大河ファンタジー 「精霊の守り人」原作