Vol.02 タンダの森で

「先生、タンダの家が出来ましたよ。すごいですよ。こんな大掛かりなセット、ぼくらでも、なかなか見られないです」
との、プロデューサーさんのお言葉に、そりゃ見逃してはならぬ、と、再び角川大映スタジオを訪ねたのは、全身の水分が汗で出ちゃうのでは? と思うほど暑い真夏の昼下がりでした。
出迎えてくれる巨大な大魔神像も、心なしか暑そう。前回伺ったときは、撮影に見入ってしまって買い忘れた「スタジオ名物大魔神クッキー」を各社の編集者さんたちの分までお土産に買って、いざ、スタジオの中へ。
「このあいだは、ここでノギ屋の弁当を料理してたんだよね」などと編集者さんたちと話しながら、スタジオのドアを開けて……びっくり!
目の前に広がっていたのは、ここは屋久島?? と、一瞬思ってしまうほど、見事につくりこまれた照葉樹林だったのです。
目を丸くしている私たちの横で、スタッフが、
「見つかった? ……あ、そうなんだ、見つかったのね。よかった~」
と、笑いざわめいています。
「いや、草木はもちろんですが、倒木や地衣類も、自然のものを移して来て植えこんだんで、蛇が紛れ込んでたんですよ」
と、スタッフさん。
「今朝、脱皮したての抜け殻が見つかったんで、こりゃ、いるぞ、って」
結局、ちゃんと捕まったのだそうですが、蚊がプーン、プーンと飛び回っているこの鬱蒼とした林の中にいる、一匹の蛇を見つけるのは、さぞ大変だったことでしょう。
「……にしても、暑いですね、ここ」
外よりは多少マシですが、スタッフさんは汗だらだら、私たちも汗がひかない。クーラーが効いていると思っていたのに、湿気も暑さも相当なものです。
「すいません。なにしろ自然の木々なもんで、クーラー入れたら紅葉が始まっちゃったんですよ」
「ありゃまあ」
タンダの小屋の中では、もう、綾瀬バルサさんと小林チャグムくんが、東出タンダさんの作る山菜鍋を食べるシーンのリハーサルが念入りに行われています。
狭い小屋の中では本当に火を焚いていて、鍋がぐつぐつ煮えていますから、撮影の合間に携帯扇風機のわずかな風で涼をとっていても、厚手の衣を着ている東出さんは、さぞかし暑いことでしょう。
この暑さの中で、何時間も撮影が続くのです。役者さんもスタッフも、タフだなぁ、と、つくづく思ったものです。
東出さんは、気遣いのある方で、とても自然体。その素朴で実(じつ)のある感じがタンダそのもので、彼らが山菜鍋を囲んでいると、自分の頭の中にしかなかった光景が目の前に出現してきている不思議さを感じずにはいられませんでした。
スタジオの中に忽然と現れた森の中に佇みながら、私はそのとき、自分の頭が生み出したものの中にいる、という得難い経験をしたのでした。