取材日記

いつもにぎやか、ナティの家族

2015/10/16

きょうの取材日記は、『エチオピア』でかっこいいお兄ちゃん、ナティを撮った東海林美紀さんの登場です。独特の文化が色濃くのこる、エチオピアの古都、ゴンダールでの取材のようすをどうぞ!

2014年8月、「世界のともだち」シリーズのはじめての取材で、エチオピアに行きました。空港から外に出ると、雨期に入っているアディスアベバの空はどんよりして雨がしとしとと降り、吐く息が白くなるほどの寒さでした。

エチオピアは3000年も独立を守り、アフリカでは数少ない植民地化されなかった国です。80以上の民族が暮らしていて、それぞれの民族や住む地域によって独自の文化が育まれています。どこに暮らす子を主人公にするか悩みましたが、エチオピア正教やアムハラ語に関連深い北部のアムハラ族か、またはティグレ族にしようと決めて古都ゴンダールから旅をはじめました。

ゴンダールはファシリデス王によって17世紀につくられた、標高2000メートルにある緑の多い町です。町の中心部にあるお城は中世ヨーロッパ風で、そのまわりの石畳の道路をロバや伝統的な衣装を身にまとった人々が行き交う姿は、まるで時間がとまっているかのようです。このお城や、首に羽が生えた80の天使が描かれているデブレ・ブレハン・セラシエ教会がゴンダールのシンボルになっていてたくさんの観光客が訪れます。また、ゴンダールはアムハラ文化が色濃く残る町でもあります。

エチオピアはグレゴリア暦ではなくエチオピア暦を使っていて、新年は9月からはじまります。私がゴンダールを訪れたのはお正月の少し前。小学校は長期の休みに入っていて授業がなかったので、街中を歩きながら男の子を見つけ、近所に男の子がいるかを聞いてはお家を訪ねました。私はこれまでアフリカの女性や女の子の撮影をすることが多かったので今回のモデルも女の子がいいかなと思っていたのですが、他のアフリカの国の巻ですでに女の子の取材が始まっていたこともあり、エチオピアのモデルは男の子で、とお願いされていたのです。

今回のモデルになったナティとはゴンダールに行ってすぐに会っていました。弟をおんぶしていたナティと初めて会ったときに、「この子がいいな!」と思ったのですが、年を聞いたら13歳で今回のモデルには大きすぎると思い断念。8才から10才の男の子を探し、そのご家族からも取材の許可をもらったのですが、家族想いのナティとやんちゃな妹たち、生まれたばかりの弟を密着して取材したいという思いは消えず、ゴンダールの滞在中はナティを取材して他の町でまた別の子を探そうと決めました。

ナティの生活を撮影する日々が始まりました。エチオピアの小学校では英語のクラスがありますが、全員が英語を上手に話せるわけではありません。ナティは海外の映画をたくさん観ていたので英語を話すことが得意で、アムハラ語が話せない私とでも直接話すことができました。ナティはテレビを観るのが大好きで、家にいるときはほとんどテレビの前にいます。親友のサミーが家に遊びに来ることが多く、どこかに出かける時もいつも一緒でした。妹のブロクタイルはおてんばで、リリーはしっかり者。お母さんは小さい弟のエリアスの面倒を見ながら大忙し。子どもたちはいつも家のお手伝いをしています。お父さんは仕事で家にいないことが多かったのですが、朝と夜は家族全員がそろってとてもにぎやかでした。

その後、ゴンダールから他の町へ移動してからも、何人か男の子を見つけたものの、日本に帰国してから編集者さんと相談し、ナティを主人公にすることに決めて、再度エチオピアを訪れました。1月のエチオピアは乾期で天気がよく、毎日青空がひろがっていました。ナティの家に行くと、リリーとブロクタイルがすぐにかけよってきて、友だちの家にいるナティを呼びにいってくれました。ナティは背が伸びて顔つきも大人っぽくなり、さらに頼もしいお兄ちゃんになっていました。お家は新しく大きく改築されていて、赤ちゃんだったエリアスは歩けるようになり、お母さんはコーヒーセレモニーの仕度をしながら、もうすぐ赤ちゃんが産まれることを教えてくれました。

テーブルの上に野菜が入った買い物袋があり、見覚えがあるなと思っていたら、なんとそれは私が1年前に置いていったビニール袋だったのです。何気なく渡したビニール袋がこんなにも大事に使われていたことに驚きました。前回、ナティは日本のふりかけを初めて食べてとても気に入っていたので、今回はお土産に持っていきました。「あ!これはご飯にかけるやつでしょ?」とナティはふりかけのことを覚えていて、早速市場にお米を買いにいき、ふりかけを棚の奥に大切にしまって少しずつご飯にかけて食べていたようです。

1回目はお正月休みで学校の様子を全然撮影できていなかったので、2回目の取材では登下校や学校の様子を中心に撮影を始めました。ナティの家から歩いて2、3分のところにある小さなホテルに泊まりながら、ナティが起きてから寝るまでの間をずっと一緒にすごしましたが、いつもにぎやかなナティの家に毎日通うのがとても楽しみでした。

つづく

(写真・文 東海林美紀)

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東海林美紀

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1984年山形県鶴岡市生まれ。2007年から2年間、青年海外協力隊に参加。アフリカ・ニジェールの現地NGO事務所と診療所でHIV/エイズ対策にとりくみ、サヘル地帯にくらす人びととの生活のなかで撮影をはじめる。帰国後はアフリカ、アジアの女性の健康と権利をテーマに撮影をおこなう。撮影を担当した本に『世界女の子白書』などがある。現在は、世界と日本各地にのこる伝統的なくらしと自然を撮影・取材している。

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