取材日記

本を届けにモンゴルへ

2014/02/10

モンゴルの取材日記、第2弾です。5巻めの『モンゴル』ができあがったのは、年もおしせまった12月27日。年があけてすぐ、できあがったばかりの本をかかえてカメラマンの清水さんはモンゴルに旅立ちました。バタナーや家族のみなさん、喜んでくれたでしょうか……
(モンゴル取材日記、第1弾はこちらです)

2014年1月、お正月をむかえたばかりの日本を旅立ち、3月に開催する個展の最終取材をするためにモンゴルをおとずれました。スーツケースにはできあがったばかりの「モンゴル」を15冊を入れました。もちろん、バタナーや家族、親戚に届けるためです。ただただ、反応が楽しみでなりません。

ウランバートルに着いてすぐ、バタナーに電話をかけました。「えっ、できたの?早く持ってきてよ」携帯電話ごしにはずんだ声が聞こえます。昨日まで学校があったそうで、今はちょうどウランバートルの家にいるようです。さっそく届けにいくことにしました。

半年前よりもさらに大きくなったバタナーは、表紙を見るとすぐに笑顔を浮かべました。それから1ページ1ページていねいにめくっては真顔になったり、笑ったり、ひとりごとをつぶやいたり。「いいよ、すごくいい本だね。うれしいな。水遊びのシーンだけは恥ずかしいけどね」さっそく同居しているおじさんとおばさんに撮影されたときの状況を説明しながら得意げに見せています。

もう正月休みに入ったというバタナーといっしょに、そのまま両親と妹のいるボルノールまで車で向かいました。道中も何度も本をひらいて、見入るバタナー。

ボルノールに着くとまずはおじいちゃんとおばあちゃんのゲルへ。モンゴルでは一番偉い人のゲルに最初に寄ってお茶を飲んでからでないと、次のゲルに行けません。バタナーが本をプレゼントすると、それはそれは大騒ぎ。本に載っているのはみんな自分たちの知っている人たちばかり。大笑いしています。

そうこうしているうちにバタナーのお母さんや妹がやってきました。バタナーが得意げな顔で本をわたすと、お母さんも照れ隠しか、大声で笑い、饒舌になっています。すごくいい本だねとほめつつも、「シミズ! こんなブクブクな姿ばかり写して!」とからかわれたりもしました。

お父さんの反応はとても印象的でした。氷点下28℃の寒空の下、馬の仕事を放り出し、その場に座りこんで1ページ1ページうれしそうにながめだしたのです。バタナーも横でていねいに説明しています。中でもお父さんの目が止まったのは学校の写真。毎日遊牧の仕事で忙しいお父さんは、バタナーが学校で勉強している姿をいちども見たことがありません。「見たことのないシーンも入ってるし、ナーダムや正月も入ってる。」「いい本だね、最高だね」と何度も言いました。ゲルの中へ入ってからも、目尻を下げて、いつまでもいつまでも本をながめていました。おとずれた日はちょうど競走馬の訓練をする最初の日だったそうで「こういう日にいい本を持ってきてくれた。次のナーダムのときにはシミズの馬を出走させるよ」と終始ごきげんでした。

こういう反応が見られるのは、写真家冥利につきます。彼らのためにいい仕事をできたと自負しています。さいごに、バタナーから日本のみなさんへメッセージをあずかってきましたのでご紹介します。

「こんにちは。バタナーです。今、田舎のゲルにいます。
こちらの気温は今氷点下28℃です。
いい本だから、みなさん買って見てくださいね」

文・清水哲朗

本人も大満足! バタナーの大活躍が見られる『モンゴル』の詳細はこちらです。

清水哲朗

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1975年横浜市生まれ。23歳でフリーランスとして独立。ライフワークとしているモンゴルでは独自の視点で自然風景からドキュメントまで幅広く撮影。2005年「路上少年」で第1回名取洋之助写真賞受賞。2007年NHK教育テレビ「趣味悠々」デジタル一眼レフ風景撮影術入門講師として出演。2008年放浪フォトエッセイ『モンゴリアンチョップ』をNNAより出版。2012年15年間のモンゴル取材をまとめた写真集『CHANGE』を上梓。個展開催多数。日本写真家協会会員。

Tetsuro Shimizu Official web site

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