

『さくらの谷』(富安陽子 文/松成真理子 絵)が第52回講談社絵本賞を受賞しました!
本書は、作者の富安陽子さんが、実父を亡くし、葬送した夜にみたある「幸せな夢」から生まれた絵本。
ふしぎな夢を見ました。冬枯れた山並みの中、満開の桜に埋もれた谷で、鬼たちが遊んでいるのです。父を見送った夜に見た、その夢があまりにも美しくて、絵本にしたいと思いました。美しく、幸福な、あの夜の夢は、父が残していってくれた最後のプレゼントだったのかもしれません。(富安陽子)
春の気配がかすかに感じられる3月の肌寒い日。かれ木におおわれた山を歩いていた「わたし」は、ふかい谷に、そこだけ満開の桜が咲いているのをみつけました。たのしそうな歌声もきこえるようです。
さくら やなぁ
さくら とてぇ
さくら ゆえぇ
さくや ちらすや かぜまかせぇ
歌声に誘われるように谷におりると、色とりどりの鬼たちが花見をしているではありませんか。まざって遊ぶうちに、「わたし」はその鬼たちが、みんなこの世を去ったなつかしい人たちであることに気づきます。
そうか。みんな、ここにいたのか。桜の谷であそんでいたのか──。