––––『クラスメイツ〈前期〉』『クラスメイツ〈後期〉』は、森さんにとって『DIVE !!』以来12年ぶりのYA作品ですが、ひさしぶりにYAを書かれてみていかがでしたか。文芸作品とYAで、向きあい方の違いはありますか。
12年ぶりのせいでしょうか、YAを書くことがすごく自分にとって新鮮で、フレッシュな感じで書けました。12年前というよりは、20数年前のデビュー当初に戻ったような感覚でした。 私ももう40代ですし、登場人物の10代たちとのあいだにもう少し距離ができているかなと思ったのですが、実際に取りくんでみると、とくにそういうこともなく。第1話の千鶴を書きはじめたとき、肩に力を入れずにすっと入っていくことができたので、ほっとしました。 文芸作品とYA と、向き合い方の違いがあるとしたら、「どちらを向いて書いているか」の一点だけだと思います。
––––「クラスメイツ」は、24人のクラスメイトたち一人一人を主人公にした、全2巻の連作短編集です。ひさしぶりのYAをこういう形式の作品にしようと思われたのはどうしてですか。
ふつうの子の話が書きたい、というのがまずあったんです。ふつうの中学生たちの、なんてことのない日常。デビュー作の『リズム』がまさにそんな話で、そのとき「物語性が弱い」「なんてことがなさすぎる」というようなことをよく言われたので、その後は物語性を鍛える方向へ進んでいったんですけど、またぐるっとまわって原点へもどったというか、もう一度、なんてことのない物語に立ち返りたくなりました。 と同時に、せっかくひさしぶりにYAを書くのなら、以前の自分にはできなかったことに挑戦してみたいな、と。 全員を主人公にしようと考えたのは、教室というひとつの空間で、一人一人の瞳に映る風景のちがいを掬いとってみたかったからです。たとえば同じ教室にいても、どこに机があるのかによって、目に映る色彩はちがってきますよね。第7話で、いつも廊下側にいる吉田くんが、窓ぎわの席に座って「明るいなあ」って心でつぶやくんですけど、ああいうなにげないシーンが一番書きたかったところかもしれません。
––––登場人物たち一人一人にリアリティがあって、一編一編の作風も、しみじみ系あり、お笑い系ありでヴァラエティーに富んでいるので、次から次に楽しく読めるのですが、時間の流れにも人間関係にも制約があるなかで、24編もの短編を書くのはたいへんではなかったですか。
書いていて楽しかったところはどんなところですか。 たいへんでしたよ(笑)。だって、24人もいるので。 書きはじめた当初は、まず24人の名前と個性と交友関係図を頭に入れるのに苦労しました。もちろん設定ノートは作っていたけど、設定はあくまでも設定なので、どんどん変わっていくんです。書き進めるにつれて、「この子はこう」と考えていた枠を越えて、一人一人が勝手に動きはじめる。そうでないと面白くならないんですよね。 たとえば、第10話。美奈とゆうかと楓雅の3人が、美術の時間に学校で一番好きな場所をスケッチするように言われて、「グラウンドだったら土しかないから描くのが楽だ」って、グラウンドへ行く。すると、そこにレイミーがいて、空を描いている。土を描くのと空を描くのとどっちが楽かって話になるんですけど、あの場面も、最初からレイミーを出そうと決めていたわけではなくて、書いていたらふっとレイミーが先客としてあらわれた。「ここはわたしに任せて」とばかりに。そういう瞬間が書いていて一番楽しかったです。 逆にむずかしかったのは、枠をこえて成長していく24人の物語を、どの話も原稿用紙20枚前後という枠のなかに収めていくことです。意識的に枠を設けないと、どんどん話がふくらんで長くなるんですけど、やっぱり、えこひいきはいかんというのがあるんですよね。なるべく24人の枚数に差をつけたくないと。そこが一番なやましかったところです。
––––『クラスメイツ〈前期〉』『クラスメイツ〈後期〉』を通して読むと、クラス全員が自分の心の中に実際にいるような気がしてきます。お約束の質問かもしれませんが、ご自身に似ている登場人物はいますか。また、好きなキャラクターや、思い入れのあるキャラクターはいますか。
自分の中学時代をふりかえると、近いのは美奈とかゆうかとか、あのあたりだと思います。なんの努力もせずに「なんかいいことないかなあ」って毎日言ってましたので(笑)。 自分とは全然タイプがちがうけど好きなキャラクターは、このちゃん。私が男子だったら、このちゃんみたいな子を彼女にしたいです。 男子は、書いているうちにどんどん母性本能をくすぐられていったのは、陸。あと、なんだかんだ言ってヒロには目をかけていました(笑)。書いていて一番楽しかったのは、イタル! 24人を書いてみてしみじみ思ったのは、人はどのような性格であれ、その人物でしかいられないということです。「この子はこの子としてしか生きられない」と、どの子を書いていても思いました。たとえ田町のような脆さを持っている子でも、その脆さと折り合いをつけながら一歩一歩進んでいくその先に、彼女にとっての充実した人生があるのだろうと。
––––森さんのYAを楽しみにしている読者の方がたくさんいらっしゃると思いますが、今後もYA作品を書いていかれる予定はありますか。
具体的な予定はありませんが、またいつか書きたくなるのではないかと思います。50代、60代と作家として年齢を重ねていくなかで、10代を見つめるまなざしがどう変わっていくのか自分でも興味がありますし、「今しか書けない」小説を常に探っていきたいです。 どうもありがとうございました。