

地球の環境悪化でナイラ星に移住した人類。その子孫が、滅びたとされている先住民の謎に迫る。作家のデビュー作を新装改訂版で。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
大学院生の頃まで住んでいた実家の二階には、父のアトリエがあるのですが、父が階下の居間でお茶を飲んだりしている間は、アトリエは、家族に声を聞かれずに電話をかけられる場所でした。
このアトリエから、破裂しそうな心臓の鼓動を聞きながら、はじめて偕成社に電話をかけた時のことを、今もあざやかにおぼえています。作家を夢見て、自分が書き終えた原稿を読んでもらえないだろうかと、電話をかけたのでした。よくあんな勇気があったものだと思いますが、若かったのですねぇ……。
そのとき持ち込んだのが、この『精霊の木』の原稿で、これがデビュー作となったのです。
いま読み返してみると、この物語には、そういう「若さ」が、いい意味でも悪い意味でも溢れています。その頃心の中にあった思いやアイディアを全部ぶちこんで書いた物語ですから。
初版から十五年経って、それなりに変化をした現在の私の目から見ると、この物語は「若かった頃の自分」があまりにも素直に出てしまっていて、再び世に送り出すのは、いささか(というか、とっても)ハズカシイ。
それでも「読みたい」といってくださる、たくさんの読者のみなさんに背中を押していただいて、ようやく踏ん切りがつきました。ちなみに、この本は、『守り人シリーズ』の絵を担当してくれている二木さんとの出会いのきっかけでもありました。『守り人シリーズ』を楽しんで下さった読者の声に支えられて、二木さんの絵で、この本が装いも新たによみがえる……。
本の中身はとっても「若い」けれど、この本には十五年分の私の年月がつまっているとも言えるのでしょう。(上橋菜穂子)