少年のころ海で漂流していたところを助けられて米国に渡り、後に日本の外交で重要な役割をはたす、実在の人物ジョン万次郎の人生を描いた表題作(直木賞受賞)、岩穴にとじこめられた山椒魚の悲哀を描く「山椒魚」のほか、「休憩時間」など5編を収録。
1898年広島県に生まれる。本名、満寿二。文学を志して早稲田大学に入学したが、のち退学。編集記者などを経て、文学に専念。1929年に発表した「山椒魚」「屋根の上のサワン」などがみとめられて作家としての地位を確立。「ジョン万次郎漂流記」(1938)で直木賞を受賞する。1966年文化勲章受章。1993年没。おもな作品に『本日休診』(読売文学賞)、『黒い雨』(野間文芸賞)など。全作品は『井伏鱒二全集』に収録されている。