対岸の大国であるタルシュ帝国の勢力が増し、不安がたかまる新ヨゴ皇国。皇太子チャグムは、罠と知りながら、祖父とともに海軍を率いて、タルシュの圧力がかかるサンガル王国の救援にむかう。
▶「守り人」シリーズの「単行本」と「軽装版ポッシュ」の違いについて
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
のっけから、ラスト・シーンのお話で恐縮ですが、『蒼路の旅人』を読んでくださった方は、きっと、「え? これで終わり?」と思われたのではないでしょうか。
あとがきにも書きましたが、「あれで終わり」ではありません。『蒼路の旅人』は大きな物語へとつながっていく、たいせつな、船出の物語のつもりで書きました。
これまで『守り人』『旅人』シリーズでは、一応、一冊(あるいは上下巻)で終わる物語を書いてきたのですが、たぶん『虚空の旅人』を書いたあたりから、私のなかで、大きな物語がうごきだしてしまったのだと思います。
物語というのは不思議なもので、書くうちに、主人公たちに、どんどん魅かれていくということがあります。『虚空の旅人』を書きおえたとき、チャグムという少年の行く先を、もっとしっかりと書いてみたいという思いがわきあがってきたのです。
シリーズを書きすすむうちに、霞が晴れていくように、バルサやチャグムが生きている世界——新ヨゴ皇国、カンバル王国、サンガル王国、ロタ王国、そして南の大陸の国ぐにが浮びあがり、広大で複雑な世界が歴史をつくりながらうごいていく様がみえはじめました。
たくさんの人々がそれぞれの思いを抱えながら歴史をつくっていく広大な世界のなかで、北の小国の皇太子に生まれてしまったチャグムが、どう生きていくのか……それを描いてみたくなったのです。
チャグムの旅路の先は、『守り人』シリーズと溶けあっていきます。
物語がこれからどううごいていくか、実は作者自身にもまだみえていない部分がありますが、先がみえないこの旅を、ともに歩いていただければ、うれしいです。(上橋菜穂子)