

鳥類学者の20年間におよぶ研究と、画家の想像力が描くわたり鳥の旅。鳥といっしょに地球を旅するような感覚で、3種の鳥のなぞを解明。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
鳥たちのなかには、毎年、春と秋に、片道何千キロ、あるいは一万キロを超す、長い距離を旅するものがいます。これらの鳥を「わたり鳥」といいます。わたり鳥がいったいどこを通って、どこまで行くのかは、15年ほど前までは夢とロマンに満ちた謎でした。しかし今では、人工衛星を使って、鳥たちの移動のようすを、まるで見たかのように調べることができるようになりました。
とはいっても、明らかにできるのは、時間と緯度・経度といった数値情報、あるいはせいぜい、地図上に移動経路を示したものでしかありません。この『わたり鳥の旅』では、そうした衛星追跡による位置情報をもとに、鳥たちが出かけた先の風景や鳥のようすを、作者とイラストレーターの想像力で描いてみました。
この仕事には、各地の地理や動植物、人のくらしまでふくめて、いろいろな関連情報が必要でした。それらを入手し、さまざまに組み合わせ、検証し、絵に描いていく作業は、思いのほか、たいへんでした。しかし、とてもやりがいのある、まさに夢とロマンに満ちたものでした。イラストレーターの重原美智子さんとの共同作業は、とても楽しいものでした。
できあがった本を見てみると、あの味気ない位置情報が、よくここまで美しい自然や生きものの世界に生まれ変わったものだと、われながら感心します。北海道北端のクッチャロ湖から極東ロシアのツンドラ地帯までのコハクチョウの旅。九州から朝鮮半島を経て、中国東北地方までのマナヅルの旅。長野県から中国、東南アジアまで大きく迂回するハチクマの旅。読者はきっと、絵と文章を追いながら、鳥たちとともに旅している気分を味わうことができるのではないかと期待しています。(東京大学大学院教授 樋口広芳)