トビを治療したことから、傷ついた野生動物の治療を始めた著者。北海道での30年の活動と、動物たちとのふれあいを写真でつづる。
★刊行時に寄せられたメッセージです
越冬組の入院患者が減って、今年は静かな正月を迎えられそうだ。二階の仕事部屋の窓をおおったイタヤカエデの枝が丸裸となって、すみずみに冬の陽光を目いっぱいなげ込んでいる。
ぼんやりと窓の外に目を向けると、カラ類のひと群れがその枝にやってきては、西に続くニセアカシアの林へと移っていった。最後尾でぐずぐずしているシマエナガの中に、エゾアカゲラが参加した。窓のすぐそばの枝に止まり、私の顔をのぞき込んだ。知らん顔をしていると、あの鋭いくちばしで、窓ガラスをコンコンとたたいた。コンコン、ゴンゴン、カンカン、キンキンと、ガラスの音はだんだん悲鳴に近くなった。
するとコンコン、コンコンと階下の部屋で返事があり、それにパンパンともう一種の音が加わった。
入院中のオオアカゲラ、アカゲラの返事だ。コンコン、カンカン、パンパン、キンキンとドラム合戦は続いた。5分後、目の前の鳥影がすくと消えた。階下のドラマーもその手を休めた。部屋には弱い冬の陽がひっそりと残っていた。
ここ一週間、毎日くり返される退院患者と越冬組入院患者の会話が、ほんの少し長くなっているように感ずる。出版された『写真記 野生動物診療所』についての感想をのべ合っているのかも知れない。私の写真が少ない。変な顔を撮られている。○○ちゃんの写真がない……などと言っているのであろうか。
そう言えば昨夜、イタヤカエデの枝でエゾモモンガを見た。今朝の玄関先の雪の上の足跡はキタキツネだ。みんな何らかの感想を伝えにやってきたのかも知れないと妻は言う。
わたしは何かおいしい物をよこせと言っているにちがいないと感じている。(竹田津実)