妖怪になるための学校に、お手もできない犬のクンが入学することになりました。飼い主みかちゃんを守る強い犬になれるかな?
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
読者より先に「おはなし」を読むことができるのは、挿絵の仕事をするものの特権です。ただし、読みながら、挿絵のための必要な資料をメモしたり、季節や時間を確認したり、登場人物をスケッチしたり、なかなか忙しい読書をすることになるのですが。
「末吉暁子作 やまんば妖怪学校1 こいぬのクンは一年生」と表紙に書いたクロッキー帖には、題名からして当然ですが、まるまるとした子犬をいっぱい描きました。主人公のクンです。クンの飼い主の女の子、みかちゃんも描きました。この一匹と一人のシーンからお話がはじまるのです。クンはみかちゃんに赤ちゃんのときからかわいがられてきた甘えんぼう。みかちゃんは小学生。やさしくて、女の子らしい女の子。でもそれだけではありません。芯の強い女の子でもあります。そんなところを絵で伝えたくて、クンとみかちゃんを、何ページにもわたって描きました。
次に描いたのは黒猫のブニャです。スリムなブニャは、頭の回転も、身のこなしもすばやい、ねこ好きな人が見たら「なんてすてき!」と言うにちがいないねこの女の子です。鋭角的な横顔の線を探して、ブニャもいっぱい描きました。ブニャはクンを誘って、あっと驚く方法で異界へ旅立ちます。その異界に、やまんば校長の妖怪学校があるのです。
クロッキー帖には「深くて広い森」とメモした風景を描きました。メモしたのは、絵だけではなかなか「深くて広い森」にならなかったからです。その森に、やはり意外なかたちで学校の校舎が建っているのです。
校舎の入り口にたどりついたクンとブニャを待っていたのが、やまんば校長です。
千年以上続いた、伝統ある妖怪学校の校長先生ですから、髪型も服装も、そしてお顔もしゃべり方も迫力いっぱい。初登場のポーズはもちろん、すくっと立って、長い緑色の爪を伸ばした両手を腰にあてて、まっすぐこちらを見ているところです。やまんば校長の多分、少ししゃがれ気味のよく通る声での歯切れのよいしゃべり方、独特の言葉使い(おこごとに威力を発揮します)のおもしろさには、自由闊達なおばあさんならではの魅力を感じるのです。
クンのもう一人の仲間、妖怪学校の生徒、カッパのカプーも登場します。クンやブニャより少し大きなカプーですが、ふにゃっとしたたたずまいは、かなりとろい子の部類に入ります。クンとブニャの、よい仲間です。
これにもう一人、給食係の全身しらがの小さいおじいさん、やまんじいが加わって、妖怪学校の全員がそろいました。クロッキー帖には、身長の差がわかるように描いた、全員の集合スケッチがあり、試行錯誤のあとに決定した姿のやまんば校長の、ニッと笑った顔が「アクセサリーが、ほしいねぇ」と言ったので、葉っぱが揺れるイヤリングを両耳につけ加えました。
今回のおはなしは、こいぬのクンが妖怪学校に入学し──りっぱなばけいぬになって、みかちゃんをいたずらっ子から守るため──そして本当の生徒になるまでの波瀾万丈です。甘ったれだったクンが、ほんの少しだけど、たくましくなっていきます。
きびきびとした日本語の中に、ゆったりとしたおかしみの流れる末吉さんの文章は、そのまま、気持ちのいい風の吹く、妖怪学校のある深くて広い森です。仕事中、ずっと吸っていた森の空気を、読者のこどもたちとわかちあえるのは、本当にうれしいことです。
最後に、妖怪学校の給食について書きます。とんでもない食材から作られる、ふしぎな料理は、みかちゃんの家でおいしいものを食べてきた(であろう)クンでさえ夢中になるおいしさです。なんともたまらない食べものの描写には、決して作れない料理であっても(例 かえるのたまごプチプチにこみ)こちらのおなかが鳴るのでした。
おかべりか