



静かな夜の街。昼間たくさん遊んですっかり眠くなったウサギの男の子が、お母さんに抱っこされて家に帰っていきます。明かりの灯った家々の窓からは、夜を思い思いに過ごす人々の様子が垣間見えます。電話で話をしている人、遅い時間に料理を作る人、一人きりで過ごす人もいれば、賑やかなパーティーに参加している人々。まもなく男の子は家に着き、ベッドの中で、さっき見た人たちのことに思いを巡らせます。みんな今頃どうしているかな、そろそろ寝る支度をしている頃かな……やがて男の子の想像と現実とが夢うつつの中に混ざり合い、満ち足りた気分のうちに一日が終わっていくのでした―—。一つ一つの絵に想像をかき立てる要素が盛り込まれ、シンプルな物語に奥行きを与える、夜の読み聞かせに最適な絵本。
受賞歴:
ずいぶん前に訪れたみやこしさんの個展で、気になる絵がありました。夜、柔らかい明かりの灯った部屋で白ヤギさんが電話をしている絵です。その静かな表情からは、楽しい話をしているのかあるいは悲しい話なのかは読みとれません。遠く離れた家族と話しているのかな、もしかすると何年も会っていない友だちから連絡が来たのかもしれない、あ、友だちじゃなくて元恋人だったりして!?などと、一枚の絵から想像が膨らみました。
その後みやこしさんと話をしていた時、「ああいう場面を散りばめた、群像劇のような絵本を作りましょう」と盛り上がり、後日みやこしさんがそのイメージを、きちんと絵本の形にしてきてくださったのです。
主人公のウサギの男の子には知る由もありませんが、彼がたまたま目にした情景の一つ一つには、街の人々の悲喜こもごものドラマが潜んでいるのかもしれません。前半に出てくる人が後半に再登場するのですが、ぜひ時間を経た二つの絵をじっくり見つめて、それぞれの人が一体どんな夜を迎えているのか、いま何を思うのか、などなど自由に想像を膨らませてみてください。前述の電話の場面も登場していますので、どうぞお楽しみに!