琵琶湖西岸の里山を舞台に、自然との共生を考えるドキュメント絵本。一人の漁師を主人公に水をめぐる生命の物語が紡がれていく。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
ぼくが撮った田畑や雑木林の写真を見て、今森さんは琵琶湖は撮らないんですか、とたずねられたことがありました。その言葉を聞いて、素直なところ驚きました。というのは、ぼくとしては、実際にファインダーをのぞいてねらっているものは、田んぼや林やカエルや虫たちであっても、間接的にいつも琵琶湖を撮っているつもりでいたからです。小さなころから毎日みている琵琶湖は、わざわざ写真にするものではなく、ぼくにとっては心の記憶の中に浸透している形のない環境だったのです。でも、そんなことがあってからは、いつかは直接的に琵琶湖を撮るときがくるだろうなと、ひそかに期待していたことは確かです。
やがて、そのときが、突然やってきました。それは、漁師さんとの出会いです。大正生まれの田中三五郎さんというおじいちゃんです。ひろいひろい海原の入り口におじいちゃんがいて、ちゅうちょしているぼくを案内してくれた、そんな感じです。
そのおじいちゃんのなかに、ぼく自身が抱いている琵琶湖のすべてをみつけることができました。そしてそれは、水の流れの中に生きる生き物たちすべてのメッセージでもあったのです。(今森光彦)