

見わたすかぎりの草原で、わたしが出会ったコウちゃんは、お母さんの亡くなった弟だった。せつなさと希望にみちた始まりの物語。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
『わたしのおじさん』のストーリーを思いついたのは、といっても、おぼろげなストーリーの断片でしたが、もう十年以上前のことになります。それ以来、ふとした拍子に「いつか『あれ』が書きたいな」と思うことが幾度もありました。(タイトルもまだなくて、ずっと『あれ』だったのです。)でもなかなかうまくまとまりそうにありません。のんきで怠け者な私は「まあいつか機が熟することがあるかもしれない」と、ほうっておきました。
そういう『あれ』は、ひとつきりではなくて、中にはいつの間にか消滅してしまうものもあります。たぶんそれは消えるべくして消えたのでしょう。『わたしのおじさん』は、ずっと私の中に居続けました。そして、ときどき私に「もしもし」と声をかけてくれました。十年以上も経って、ようやくできあがった本を見ると、その長い時間はそれなりに必要だったのだと思えてきます。
その十年は、画家・植田真さんとの出会いを待っていた時間でもありました。ページを開けば、植田さんの絵が物語の中に呼び込んでくれた、心地よい、新鮮な風を感じていただけることでしょう。
どうかお楽しみくださいますように。(湯本香樹美)