『穴』で世界中を魅了したルイス・サッカーデビュー作の初邦訳。へんてこな学校のおかしみたっぷりの毎日が30話つまっています。
1954年ニューヨーク生まれ。1978年『ウェイサイド・スクールはきょうもへんてこ』『ウェイサイド・スクールはますますへんてこ』でデビュー。ほかのおもな著作に『穴』(ニューベリー児童文学賞受賞)『道』など。
おもな訳書に、『永遠に生きるために』(ニコルズ作)『ウェイサイド・スクールはきょうもへんてこ』(サッカー作)『その歌声は天にあふれる』(ガヴィン作)『セシルの魔法の友だち』(ギャリコ作)『オークとなかまたち』(メイビー作)『余波』(ロビンスン作)など。幸田敦子名義の訳書に、『穴』『道』(サッカー作)『千尋の闇』(ゴダード作)など。
★刊行時に寄せられたメッセージです
もう何年も前、ルイス・サッカーの「穴」を読んでとても感銘したのを憶えています。でも同じ作者がそれ以前にこんな面白い作品を書いていたとは、今回イラストを担当することになって、翻訳を読むまで知りませんでした。
この「ウェイサイド・シリーズ」、一見ナンセンスでシュールなコメディー。支離滅裂の一歩手前のスラップスティック。ありえないようなことばかり起こる、誇張と脱線と妄想のお話です。
ところがそれは単なる表面で、物語の中心にはほとんどリアリズムともいうべき現実感があるのです。つまり小学校低学年のリアリズムです。
小学校に入学したころのことは僕もよく憶えています。最初の数日、同じクラスになった子供たちの顔がとっても「へんてこ」に見え、なんだか別の動物や宇宙人も混じっているかのように思えました。いったん同級生の顔に馴染みはじめてから、今度はとなりのクラスの子等を見たら、全員外国人に見えました。「わっ、となりはガイジンのクラスだぞ!」とびっくりしたし、先生方もサイボーグと妖怪の集団でした。
自分が通っていた小学校は木造二階建てで確かに横に長かったけれど、七歳のときの僕の頭のなかでそれは見た通りの建物ではありませんでした。上級生たちのいる二階には上がったことがなく、そこにどんな世界があるのか好奇心と恐れをもって想像することもありました。空想のなかで校舎はいくらでも変形し、存在しない十九階に行ってしまうことだってこの年齢の子供たちには可能なのです。
小学校の中、高学年になって、世間のことがそれなりに俯瞰できるようになり、物が分かってくる以前の時代。つまり現実が常に空想や妄想と接触して火花を上げていた、恐ろしくも幸福な日々。「ウェイサイド」は忘れかけていたあの頃の感覚を冷凍庫から引っぱり出して解凍してくれました。怪作でまた傑作だと思います。
きたむらさとし