取材日記

主人公のリセットと出会うまで

2014/11/05

きょうのブログは、『世界のともだち⑬メキシコ』を担当した長倉洋海さんの登場です!
長倉さんは、主人公のリセットと出会うまで非常に大変だったようで……

シリーズの第1期目で、ルーマニアのアナ・マリアという女の子を撮ったので、今回のメキシコでは「男の子を撮るぞ」と決めていました。現地の情報を集め、通訳をしてくれる青年も見つかり、いざ出発という段になって、編集部から「南北アメリカ大陸のほかの国がぜんぶ男の子になったので、女の子でお願いできませんか」と要請がきました。ちょっとガッカリしたけれど、「しかたがない」とあきらめてメキシコに出発。

アメリカのヒューストンまで飛び、飛行機を乗りかえ、目的地のオアハカ市に入った。オアハカ州は「死者の日」で有名な場所で、今回撮る子が決まったら、その子が「どんな死者の日を迎えるか撮りたい」と思っていた。

現地で通訳のイルビン君と合流。日本語を勉強中の大学生でいい感じでまず一安心。彼と早速、ホホコトランの町で、シリーズに登場してくれる女の子を探しはじめる。「このあたりで10才くらいの女の子がいませんか」とききまわった。「あそこの家にいるよ」といわれ、訪ねてみると「うちにはいません」という返事。表で女の子を見かけて、その家の家族に話すと、「無理です」と断られる。「トホホ」と、二人で肩を落とす。

ひげ面の二人は十分にあやしい。女性の通訳にしたらよかったと悔やむ。

イルビンは落ちこんでいるがあきらめるのはまだ早い。今度は近くの学校に直接、のりこむことにした。学校の許可をとらないと授業風景も撮れないのだから、先に学校を味方につけ、いい子を紹介してもらうと考え直したのだ。

学校に行ってみると、門はぴたりと閉じられ、父兄たちが門番をしている。実はメキシコは幼児誘拐が多いため、親たちが不審者が入らないように交替で警備していたのだ。先生を呼んでもらって話をすると、ひとりの女性教師が「わたしの息子は8才だけど、うちの子は大丈夫よ」といってくれた。この女性は日本に短期留学した経験があり、大の日本好き、息子の名前も「セイジ」だった。

申し出はありがたかったが、女の子を探すため、泣く泣く、この町はあきらめ、トラコルーラという先住民が集まる大きな町の市場に向かう。小学校を訪れ、校長先生に説明しても「父兄会の許可がないと……」と難しい。次の学校もダメ、そしてたどり着いたのが、タペストリー(織物)で有名な町、テオティトランデルバジェだった。

そこの小学校は、二つの学校が校舎を午前と午後に分けて使うめずらしいスタイルだった。まず午前の部の校長に会った。しかしここでも、「父兄会の許可を……」とやんわり断られる。すると門番をしていたひとりの男性が、「午後の部の校長はもっと柔軟だし、以前、取材を受けいれたことがあるよ」と教えてくれる。

気をとりなおして、午後の部の校長と会って、取材意図を一生懸命に説明すると、各教室で撮影する子を募る機会をもらえることになった。

4年から6年まで各2クラスの教室すべてをまわり、前回のアナ・マリアの刷り出し(まだ本になっていなかった)を見せながら説明する。話が終わって、申し出を待ったがだれもこない。

それならと、興味深そうな表情できいていた子にこちらから声をかけて、直接きいてみることに。すると「応じてもいいかな」という子が二人いた。家でも織物を手伝っているというので写真的にも大丈夫だ。「きょう親に話して、許可をもらってきて」とお願いする。しかし翌日、二人は申し訳なさそうに「家族が反対なので」と話す。いけそうだと思っていたのに……。

しょんぼりして校庭を歩いていると、花壇に座っている女の子と目が合った。利発そうで表情も明るい。「この子がいいかも」と思ってイルビンに話すと、女の子はまるで二人の会話がわかっているかのように何度もうなずいている。それがリセットとの最初の出会いだった。そのとき、リセットのためにお昼ごはんを持ってきていた彼女のお姉さんのナンシーとも会った。ナンシーはなんと英語がペラペラ。アメリカで生まれ、つい2年前までアメリカで暮らしていたのだ。ということは、リセットも英語がわかっていたわけだ。

つづく……

(写真・文 長倉洋海)

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長倉洋海

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1952年北海道釧路市生まれ。通信社勤務を経て、1980年よりフリーの写真家となる。以降、世界の紛争地を訪れ、戦争の表層ではなく、そこに生きる人間の姿を捉えようと撮影を続けてきた。『マスードー愛しの大地アフガン』で第12回土門拳賞、『サルバドルー救世主の国』で日本ジャーナリスト会議奨励賞、『ザビット一家、家を建てる』で講談社出版文化賞写真賞を受賞。著書に、『ヘスースとフランシスコ エルサルバドル内戦を生きぬいて』、『私のフォト・ジャーナリズム』などがある。

長倉洋海ホームページ

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