取材日記

タイのお正月、ソンクラーン

2014/11/11

タイを撮ってくださったERICさんより、取材日記がとどきました。今日から2回にわけて更新します。1回目は、取材初日のお話です。出会ったばかりのヌックとERICさんが出かけたのは……

撮影の開始は4月、タイの新年にあたる。ソンクラーンという「水かけ祭り」にゆく。空港におりたのは水かけ祭りの当日、そのままヌックの家にむかい、約束の時間にまにあった。ヌックと家族がそろって笑顔でむかえてくれる。初対面なのに、まるで自分の家族のもとにもどってきたみたいな錯覚が生まれるほどの歓迎ぶり。猛烈な暑さ(36度!)と時差でなかば意識朦朧だった僕は、このままここで眠れたらどんなに幸福だろうと思う。でも、仕事、仕事。ガンバレ、自分!

ヌックのお父さんの車で祭り会場の近くまで行く。祭りのようすが見えはじめる前から、お祭り特有の高揚した気配、空気が伝わってきて、自分がそれに感染していくのがわかる。肩かけかばんには通常のカメラ、手には防水カメラ、僕自身は用意の水泳パンツ一丁というゴキゲンな恰好。

大通りを閉鎖した会場に入るやいなや、水を四方八方からかけられまくる。年齢も性別も身分も何もかもいっさい関係なく、みんな笑顔でひたすら水をかけあう。その気持ちのよいこと、楽しいこと。いっぺんに目が覚めた。ソンクラーンを心待ちにしていたというヌックもハイテンションになっている。一見、おとなしそうなインドアな女の子に見えるけれど、実はヌックは人見知りもしないとても活発な都会っ子だ。撮影の緊張をとく配慮をしなくても、自然なようすが撮れる。

昼食はヌックのお父さんが、会場そばのデパートの最上階の、本格的なタイ料理のレストランにつれていってくれた。おどろいたのは、着替えずに濡れそぼったままで入店できたこと。祭りの間の特例なのだそうだ。ソンクラーンは、タイ全国のあちらこちらで行われる祭りだが、寺院での新年行事をルーツにしていて、国民が互いの繋がりを確かめ、共に新しい年を迎えられたことを喜ぶ意味を持っている。堅苦しさは全然なくても、立派な国民行事なのだ。

おいしいタイ料理に満腹。店内はエアコンが効き、ソンクラーンから濡れてきたものには、涼しいをこえてやがて寒くさえ感じられてくる。長居はせずにふたたび祭りにくりだす。さっぱりとした烈日の下のタイのお正月がすっかり気に入る。僕もヌックも午前中に増して張り切る。一日のうちで最も気温の上がるころ、祭りも最高潮。

子供の背丈ではしずんでしまうような量の泡のコーナーで泡まみれになったら、消防車の放水でそれを洗いながす。水を身に浴びる音と、地面にはねる音、その合間に聞こえるのは歓声と笑い声。飛びかう水しぶきのあいだに見られるのは笑顔ばかり。素敵なお祭りのおかげで充実した撮影となった。くたくたにつかれたけれど、ともあれ、いっしょにはしゃいでヌックとうちとけられたのがなにより。

(写真・文 ERIC)

ERICさんによる、世界のともだち⑮『タイ バンコクの都会っ子 ヌック』の
詳細はこちらをごらんください。
本のなかでも、ソンクラーンのことをくわしく紹介しています!

 

ERIC

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1976年香港うまれ。1997年に来日、「西村カメラ」で写真を学ぶ。「生活のなかの人々の姿」をテーマに撮影をつづけている。2001年、「蓄積と未来」でコニカフォトプレミオ大賞受賞。2009年、「中国好運 GOOD LUCK CHINA」で第9回さがみはら写真新人奨励賞受賞。写真集に『everywhere』(東京ビジュアルアーツ出版)、『中国好運 GOOD LUCK CHINA』『LOOK AT THIS PEOPLE』『Eye of vortex』(以上すべて赤々舎)などがある。

http://ericolour.com

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