取材日記

エリオの団地生活

2015/11/16

「キューバ」の取材日記、2回目です。(1回目はこちら)今回は、楽しい団地暮らしを紹介します。大きなファミリーのような団地生活、なつかしい感じがしました…!

エリオは、町はずれにある大きな団地にくらしています。団地に住む人たちはみんなが仲良しで、まるで全員がひとつの家族みたいです。食事どきにはおたがいの部屋を「調味料貸して」「お鍋貸して」「野菜貸して」と、行き来するのは当たり前で「食べに来たよ」といって、ほかの人の部屋で食事するのも、いつものことです。

ある日、エリオが庭でひとり遊びをしていたら、20歳くらいのお兄さんがぷらりとやってきて、キャッチボールの相手をしてあげていました。その姿はあまりに自然で、エリオってお兄さんいたっけ?と思ったほどでしたが、そうではないようです。別の日には、また別のお兄さんがエリオの相手をしていました。

おやつどきに庭で遊んでいると「エリオ、ケーキ食べる?」「ポップコーンあるよ」などと声をかけられます。エリオはおなかがいっぱいになるまで各部屋をハシゴ。「あまり食べすぎると夜ごはんが食べられなくなるわよ!」とお母さんにおこられることもしばしば。

団地に赤ちゃんが産まれれば、みんなで可愛がり、育てます。お父さんとお母さんが仕事にいったり遊びにいったりしたいときは、団地のだれかが赤ちゃんをあずかってくれます。まだ小さいエリオの妹、エリアネも年下の赤ちゃんたちのめんどうをしっかりみていて、まるでその子たちの本当のお姉さんのようです。

動物も同じ。この団地に迷いこんだニワトリを庭で放し飼い。ヒヨコが産まれると子どもたちみんなで可愛がっています。

団地には洗濯物を干す共有スペースがあります。団地は32世帯もあるので、使う順番や場所にルールがあるのかとエリオのお母さんに聞くと、「別に決めているわけじゃないけれど、なんとなく下の階の人から順に使っているわね。うちは1階だから、朝5時から洗濯をはじめるわ! でも昼にもまた洗濯することもあるし、場所があいてなかったら、団地を出たところに行って干すこともあるわ。急に雨が降ったときは、どこの部屋のものかは関係なく、とにかく全部取り込んでおくのよ」と、豪快な答え。細かいことは一切気にしていないようです。

エリオの親友アレハンドロは、団地から何キロも離れた所に住んでいるのですが、エリオの家によく遊びに来て寝泊まりしています。

団地の人たちはアレハンドロに対しても、団地の子たちと同じようにやさしく接し、ときには厳しく注意したり怒ったりもします。他人の子どもをそんなふうに叱るなんて、と思ったりもしましたが、きっとそれは家族に近い絆があるからこそだと感じました。僕は、はじめてこの団地を訪れたとき、エリオとアレハンドロのことを兄弟だと思っていました。それくらいにふたりや、ふたりをとりかこむ団地の人たちが密接につながっているように見えたのです。

これはエリオの団地の話です。でも、エリオの団地が特別なのではありません。キューバでは、どこでもこれが普通の風景です。

(写真・文 八木虎造)

団地のにぎやかな生活もたくさん紹介しています。
世界のともだち㉗『キューバ 野球の国のエリオ』、くわしくはこちらをどうぞ!

八木虎造

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1974年、東京都大田区生まれ。野球をはじめたのは5才のとき。小学生のころの夢は、プロ野球選手か天文学者になること。中学生のころにみた、スポーツ写真に感動してカメラマンを志す。24才でプロカメラマンになり、30才からイタリア、リトアニアで野球選手としてプレーし、キューバにも野球留学した。右投げ右打ち、捕手。著書に『イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました』(小学館)がある。

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