取材日記

野球の国、キューバ

2015/10/20

ポストシーズンがもりあがってきた今日このごろ、みなさんも野球を楽しんでいることかとおもいます!きょうは、『キューバ』の八木虎造さんが登場です。キューバの子どもの野球事情、それを見まもるお父さんたち……野球まみれでお届けします!

キューバは世界一野球がさかんな国です。町のいたるところで、キャッチボールや野球をする光景が見られ、人が集まると話題は必ず野球のこと。どこに行っても野球、野球です。

子どもたちを教える指導者たちも、とても熱心。練習中に集中力を途切れさせたり、関係のない会話をしたり、遊びはじめた選手たちには、コーチや監督から容赦のない罵声が飛び、罰としてOKを出すまでグラウンドを走らせます。
逆に、よいプレーをした選手には、コーチが何人もかけよってぎゅっと抱きしめます。そして、そのプレーがどうよかったのかを、球場中に響きわたるくらいの大声で、わかりやすく説明するのです。その説明を聞いた観客たちは、あらためてその選手に拍手を送ります。また、試合中に良くないバットの持ち方や、ボールの握り方をしていた選手には、それが相手のチームの選手だったとしても、教えてあげます。
審判でさえ、必要と感じれば、試合を止めてまでも、選手たちにルールをていねいに教えます。

今回の主人公・エリオのチームのコーチ、ペドリーの夢は、海外で野球の指導者になることです。ペドリーのお父さんは、キューバでも有名な指導者で、イタリアなどでも野球を教えています。
国の制度の問題で、家族が海外に行くことになっても、いっしょについて行くことができないので、ペドリーはまだ海外に出たことはありません。お父さんから伝え聞く海外での野球指導にあこがれて、彼はいま、野球の勉強だけでなく、英語、イタリア語も勉強しています。海外のスポーツ選手たちが、ケガを防止するためにどんなトレーニングをしているのかを学び、キューバに持ち帰って、選手たちに伝えたいのだそうです。

エリオには、ヤンという親友がいます。ふたりとも運動神経は抜群。エリオとヤンのお父さんたちは、どちらもホッケーの元キューバ代表選手で、チームメイトでした。

エリオは、野球をやることにものすごい情熱をもって毎日くらしています。近所の友だちと遊ぶときも、だいたい野球。地域のチームでプレーするときは、いちばんはじめにグラウンドにあらわれ、最後のひとりになるまで練習しています。いつも笑顔でニコニコしながらプレーし、野球が大好きでたまらないといった感じ。
そしてヤンは、野球はおそらくエリオと同じくらいか、それ以上に上手なのですが、野球以外にも、サッカー、陸上、水泳をしていて、将来はホッケーもやってみたいそうです。お父さんにあこがれているヤンは、はやく頑丈な体を作って、ホッケーをプレーしようと考えています。

ふたりのお父さんは、そんな息子たちを、どう思っているのでしょうか。
「ホッケーをやりたいと言ってくれるのはうれしいけれど、キューバといえば野球なんだよね。できれば野球を続けてくれると……。ただ彼が望むのならどんなスポーツをやってもいいし、違うことをやってもいいし。毎日楽しくいろんなスポーツやっている彼を見ると、こっちも楽しくなるしね」とヤンのお父さん。

エリオのお父さんは「仕事の合間をぬって、エリオを球場につれていったり、毎日家の前での練習につきあったりするけれど、大変だとは思ったことはないよ。エリオは練習をやりすぎるので、それをコーチや私が止めるのが大変だけどね。体を休めなきゃいけない日にも、こっそり練習してるんだよ。何度も教えるんだけど、なかなか理解できないみたいで……。将来は元気でいてくれたらそれだけでいいよ。いまは選抜チームにも選ばれたりしているけれど、将来のことは、まったくわからないし、彼が決めることだから。算数が得意で、いつも自分から計算の勉強をしているから、大学に行って勉強してみるのもいいかもね」といいます。
ふたりとも「自分の未来は自分の力で切り開いてほしい」とも話していました。

エリオの夢は、野球のキューバ代表選手になって、日本代表チームと日本で試合をすることです(日本の野球は、現地でとても人気があります)。その夢がかなう日を、楽しみに待ちたいと思います。

(写真・文 八木虎造)

エリオの華麗なプレーも満載、
世界のともだち㉗『キューバ 野球の国のエリオ』詳しくはこちらをどうぞ!

八木虎造

関連記事一覧

1974年、東京都大田区生まれ。野球をはじめたのは5才のとき。小学生のころの夢は、プロ野球選手か天文学者になること。中学生のころにみた、スポーツ写真に感動してカメラマンを志す。24才でプロカメラマンになり、30才からイタリア、リトアニアで野球選手としてプレーし、キューバにも野球留学した。右投げ右打ち、捕手。著書に『イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました』(小学館)がある。

  • チェック