人間に捕らえられ罠から逃げ出したこぐまは、別の親子ぐまと出会いともに暮らす。1匹のヒグマを通して自然の大切さを描く。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
私の仕事場の近くを流れる、北海道十勝川の支流ペケレベツ川(アイヌ語で「清い水」)。その周辺のペケレベツの森には、はるか昔からヒグマの家族が生息していました。しかし、そのほとりは護岸工事や高速道路建設、さらに砂防ダム指定地になった影響で河畔の林が徐々に伐採され、ザリガニやエゾサンショウウオなどの生き物を育んできた湿地も埋め立てられてしまいました。
ペケレベツの森はヒグマやフクロウなどさまざまな生き物たちの森であったはずなのに、このままだといずれは絶滅します。ヒグマが生存するのに可能な森の保全は、人々にとっても有益であり、必要なはずです。
ヒグマは六個も乳首があるのに、産む子ぐまの頭数はふつう二頭です。冬ごもりの穴の中での出産と子育ては、母ぐまにとって大変な仕事であり、二頭の出産が限界なのかもしれません。
近年、ペケレベツの森で、四、五頭の子ぐまを連れた母ぐまを目撃したという情報がありました。毎年、狩猟や駆除によって母ぐまが捕獲されます。そのたびに子ぐまたちはみなしごになり、山中をさまよい歩きます。そのような迷い子を、子育て中にもかかわらず、自分の子としていっしょに育てているのでしょう。ヒグマにとって、六個の乳首はむだではないのです。(本田哲也)