のろわれた一族の屋敷を相続した孤児のオリヴァーにしのびよる危機。英国の人気作家が描く、ぶきみで楽しいゴーストストーリー。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
この物語は、第二次世界大戦の最中にいきなり幽霊になってしまったウィルキンソン一家のお話です。とまどったのもつかのま、一家はそれなりに幽霊生活を楽しんでいましたが、住んでいた家を追い出されてから苦難の時がはじまります。そんな一家を助けたのが「幽霊派遣会社」。会社に紹介されて行った先は、数百年の歴史を持つマナー・ハウスでした。そして屋敷の当主は、十歳にもならない孤児の少年だったのです……。
イボットソンの作品を読んでいると、またたくまに子ども時代に引きもどされます。翻訳の作業では何度も作品を読みなおしますが、お気に入りの場面や思わずクスッと笑ってしまうセリフが近づいてくると、もうわくわくしはじめ、いざその箇所を読むと、何度でも感動してしまいます(そのおもしろさが訳文でつたわっていないことに気づいて、四苦八苦したりもするのですが)。大人になると、おなじ本を何度も読むことは少なくなってしまいますが、子どものころはこんなふうにお気に入りの場面やセリフを何度も読み返しては、そのたびに小さなよろこびを味わっていたことを、イボットソンは思い出させてくれます。
それに最近、ひそやかな楽しみを感じる場所がふえたのも、イボットソンのおかげです。私の行く肉屋さんは、注文した品を奥の冷凍庫から出してきてくれますが、その冷凍庫の中をかいま見るたびに、ロンドンの肉屋さんにとりついていたあの恐ろしいシュリーカー夫妻を思い出してしまいます。先日、川岸で釣竿を持っている男の人を見た時も、ウィルキンソン氏を思い出しましたし(幽霊あつかいしてごめんなさい!)、動物園で熱帯のカエルを見たときはもちろん、伝説の黄金のカエル(の幽霊)に思いをはせました。子どものころ、そんなふうに毎日の生活にほんのちょっと奥行きをあたえてくれた本たち。この『幽霊派遣会社』もそんな本になれればいいなと心から思います。(三辺律子)