小学6年生、越の一家は、妹つぐみの化学物質過敏症が治らないため、埼玉県から富士山の見える山梨県に引っ越す。都会から南アルプスのふもとへと大きく環境が変わった越は、複雑な思いで地元の中学校に通う。母親は、地元の食材を使った自然食の食堂をオープンさせるが、この地域の有力者からいやがらせにあい、お店もなかなか軌道に乗らない。埼玉時代の親友、直登から夏期講習にさそわれた越は、同じ中学に通う結衣と塾のセミナーに参加するも、つぐみがマムシにかまれたという緊急の連絡が入り、急きょ家にもどる。著者の実体験をもとに書かれたある一家の再生の物語。
「方程式が解けるのと、方程式は解けなくてもマムシの毒を吸って人を助けられるのと、どっちが大事なんだ?」越は方程式が解けて、マムシの毒が吸える人間になることを目ざして、浦和でなく、山梨の高校を選んだんですね。よそ者に冷たい偏屈な時田さんですが、ずっと苦労を重ねてやっと今がある、その思いもわかる気がします。(50代)