「父さん、ぼくらはどうしてあんなふうに森のおくにいたの?」米アラバマ州の自然を舞台に繰り広げられる、少年ムーンの逃亡の物語。
1970年生まれ。アメリカ・アラバマ州の森で、狩猟や釣りをして幼少期をすごす。デビュー作である『風の少年ムーン』は全米で高い評価を受ける。その他の作品に「Dirt Road Home」がある。
1954年東京生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。小・中学時代の3年間をアメリカ・イリノイ州ですごす。訳書に『赤毛のアン』『風の少年ムーン』『シャーロット・ドイルの告白』『レベッカ』などがある。
★刊行時に寄せられたメッセージです
アメリカ・アラバマ州在住のワット・キーのデビュー作にして名作です。はじめて読んだときは、あらすじをまとめるためのメモ取りがもどかしいぐらいの、一気読みでした。
なにしろ10歳まで森の奥で父親とふたりきりで暮らし、シャワーを浴びたこともなければ、ほかに口をきいたことのあるのはよろず屋のおやじさんだけ、という男の子が主人公。
自然の中でのサバイバルはお手のもののムーンが、お父さんが敗血症で死んでひとりぼっちになり、「世間」にでていきます。はたして何も悪いことをしたつもりもないのに、ムーンはおまわりさんにつかまって留置場に入れられてしまいます。そのあと養護施設に送られるのですが、今度は施設の仲間を乗せてスクールバス(!)で脱走します。
詳しいことは読んでのお楽しみに取っておきますが、息つく間もないまますでに本の半分はおわっています。
しかし、これはただのわくわくドキドキの冒険物語ではありません。ムーンと病気の友人キットとの交流には胸をゆさぶられるし、脇を固める大人たちがなかなかなのです。
後半の山場は裁判ですが、ムーンの弁護を買ってでるウェリントンがなんといってもいい。相手を決して子ども扱いしないけれどひとりの大人として守ってやろうというスタンス、距離の取り方がじつに好もしい。こんな人に私はなりたい、と思いました。
私だけの印象かもしれませんが、日本では、児童書は子ども用と決めてかかっているようなところがあり、つくづくもったいないと思います。英語はいわばバリアフリーな言語で、大人と子どもを区別する必要もないのですが(たとえば老若男女を問わず、How old are you?ですが、日本語だと、「ぼく、いくつ?」、「おいくつでいらっしゃいますか」等になってしまう)、言語の特性だから仕方ないとはいえ、子ども向けという先入観にとらわれ、日本の大人は多くの名作を取りこぼしている気がしてなりません。この本も大人の方にもぜひ読んでもらいたいです。(茅野美ど里)