

「被爆樹木」は、爆心地から約2キロメートルの距離にあり、広島市が認定しているおよそ170本の木です。被爆体験を語る方々が高齢化し、少なくなってきているなか、いまも広島の街で生きつづける被爆樹木の存在が注目されつつあります。
2011年公開のドキュメンタリー映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」を制作した著者は、映画をきっかけに、広島の被爆樹木のことを知りました。それから、3年近くの時間をかけて東京から広島へ通い、木に関わる人びとの話をきき続けています。被爆樹木を守る樹木医や、被爆証言と木の思い出を語る被爆者たち、原爆後の広島の樹木をスケッチして研究した当時の大学生、爆風や放射線の影響をしらべる研究者などのさまざまな証言から、被爆樹木と原爆について考えるノンフィクションです。
木についてのコラムや、巻末には被爆樹木マップも掲載しています。
1978年東京生まれ。慶応義塾大学卒業。大学在学中から映画美学校にてドキュメンタリー作家佐藤真に学ぶ。その後映画製作会社シグロにて「エドワード・サイード OUT OF PLACE」(監督/佐藤 真)の助監督などを経験。漫画家・中沢啓治の被爆体験の証言を記録したドキュメンタリー映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」(2011年)が初監督作品となる。第17回平和・協同ジャーナリスト基金 審査員特別賞などを受賞、国内外で上映が行われる。ほかに教材用DVD「はだしのゲンが伝えたいこと」(2011年)、「ルルド、車いすで歩く」(2014年)などがある。
木の勢いがいちばんいいと言われている6月に、はじめて広島の被爆樹木をめぐりました。広島城や縮景園、平和大通り、基町、それからお寺や小学校……。歩いたり、路面電車や車に乗ったりしながらめぐっていると、それまで原爆ドームや平和記念公園といった、点でしか知らなかった広島が、面でわかるようになってきました。広島の街の形が、すこし理解できるようになったのです。そうなると、これまで読んできた広島のことが書かれた本の読み方も変わってきました。
著者は、いくどとなく広島へ行き、本に載せきれなかったほどたくさんの方々と会い、原爆や被爆樹木についての貴重なお話をきいてきました。被爆樹木は、一見、ふつうの木と変わりません。けれど、よく見てみると、傷のあとがあったり、傾いていたり、うねっていたり、さまざまな形で原爆のあとを体現しています。
著者はあとがきで、「この本をきっかけに、広島の木に会いにいきたいと思ってくれた人がいたなら、作者としてそれ以上にうれしいことはない」とむすんでいます。静かな証言者たちの声を、これからはよりいっそう大切にしていかなくてはならないと思います。