野生の雪だるまの女の子、雪子ちゃんの毎日には生きることのよろこびがあふれています。カラー挿画入りの宝物のような1冊。
1964年東京都生まれ。小説家、詩人、翻訳家。直木賞、川端康成文学賞、山本周五郎賞、坪田讓治文学賞など受賞多数。小説のほかに、児童文学『こうばしい日々』、長編童話『雪だるまの雪子ちゃん』、絵本『おさんぽ』『ちょうちょ』、詩集『いちねんせいになったあなたへ』など子どものための作品も多く、『おおきなあかいなや』『しろいゆき あかるいゆき』『マドレーヌのクリスマス』『マールとおばあちゃん』『オズの魔法使い』『青い鳥』など、絵本や童話の翻訳も数多く手がけている。絵本についてのエッセイに『絵本を抱えて部屋のすみへ』がある。
1952年埼玉県に生まれ、大阪で育つ。銅版画家。酒脱で洗練された独自の世界は、展覧会での作品発表にとどまらず、書籍の装幀・挿画をはじめ、アクセサリーや食器のデザインにいたるまで、生活の中のアートとして様々な表現を手がけている。おもな著作に『Lの贈り物』(講談社出版文化賞ブックデザイン賞)『デューク』(江國香織・文)『わたしの時間旅行』『マイ・ストーリー』『ふしぎの国のアリス 新装版』『山本容子の姫君たち』などがある。
★刊行時に寄せられたメッセージです
雪だるまというものに、ずっと親近感を持っていました。あの、見るからに動きにくそうな体つき、やがて溶けてしまうということ、降ったばかりの雪はあんなに美しくてみずみずしいのに、雪だるまになってしまうと、あとは汚れていく一方だということ(そして、でも勿論、外気にふれていない内側の雪は──もしぱっくり割れば──美しいままのはずだ、ということ)。
俊敏な動作というものと無縁で、できないことが多く、夏が苦手だった私は、雪だるまと自分をすこし似ていると思っていました。体長10センチくらいの小さなものを作って、こっそり冷凍庫にしまっておいたりしたものでした。
でも、それはみんな、人が作った雪だるまの話です。もし、天然の雪だるまというものがいたら、それは自由にのびやかに動けるかもしれない。そう思いました。生き物の皮膚としての雪なら汚れたりもしないはずです。まっ白な、生命も感情も持った雪が自在に動きまわる。その考えに、私は魅了されました。
書かなくちゃ。そしてそう思いました。私には野生動物を造りだすことはできませんけれど、紙の上でならできます。雪子ちゃん。名前が最初に浮かびました。私のなかで、その雪だるまは雪そのものなので、他の名前は考えられなかったのです。
私が最初に書いたメモはこうです。
* 雪子ちゃんは雪でできている。
* 雪子ちゃんは一人で生まれ、一人で暮らす(でもたくさん出会う)。
* 雪子ちゃんにはできないことがたくさんある。でも、強い気持ちで生きていく。
ほとんど全編雪景色というこの地味な物語に、山本容子さんがひんやりした美しい版画をつけて下さったこと、跳びはねたいほど嬉しいです。
雪子ちゃんが、たくさんの人の心のなかに──そして勿論本棚に──居場所をみつけてくれますように。
江國香織