

犬の散歩がきっかけで、知り合った不思議な男の子。なんだかちぐはぐなのに、どうしようもなく響きあう心と心のふれあいを描く。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
九歳の子の話をずっと書きたいと思っていました。
九歳のとき、わたしは水のなかから顔だけ出して、あたりをうかがっているカワウソみたいでした。びくびくしながら、なあんだ、なるほどなどと、こまっしゃくれて思っていました。
その年の夏、父が死に、その年、やっと自転車に乗れるようになりました。
手と足は細く伸びて、かんしゃくもちでした。
でも、それだけじゃなかった、とわたしのなかで、なにかが囁きつづけるのです。
それだけじゃないものについて、書きたいと思いました。
最初から物語の形が見えていたわけでは、もちろんありません。書いたり消したりしているうちに、物語はだんだん膨らんでいき、そして波という一人の女の子がはっきりと姿をあらわしました。九歳の女の子でした。それからは波とともに歩きました。
波はおない年の朝夫くんに出会います。それは偶然ですが、でも、ほんとうは偶然ではないと思っています。どうしても会わなくちゃいけなかったのだと思います。どうしても起こらなくちゃいけないことが、偶然起きる。そう信じます。
もし、波が朝夫くんに会わなかったら、と考えると、ちょっとつらい気もちになります。波はどうやって、そのあとの十代を生き抜くのだろうと、心配です。十代を生き抜くのはたやすいことではありませんから。
酒井駒子さんが美しい表紙を描いてくださって、ほんとうに嬉しいです。絵をじっくり見てから、ページを開いてくださいね。(岩瀬成子)