

古代エジプトからやってきた少年アテンと、夢見がちな小学生サイが、夢と時間と学校を舞台にかけめぐる、冒険ファンタジー。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
古代エジプトは、遺跡の大きさ、豊富さ、見た目のわかりやすさの点で、子どもを歴史に誘う格好の素材だ。まして、それがアドベンチャーストーリーとなっていれば……。
作者テレサ・ブレスリンは、歴史を題材とした作品が得意な作家で、ピラミッド、石墓、アンクなど、エジプト文明のエッセンスを巧みにストーリー展開に利用し、悲劇的な運命を背負った王様を、生身のエジプト人少年アテンとして、現代イギリスの少年やクラスメート、家族とおもしろおかしく絡ませる。私もすっかりこのアテン少年に魅せられ、カイロ博物館であの有名な玉座を見たときは「アテン、ここにいたのね……」と思わず叫びそうになったほどだ。
さらに、少年王アテンをそれとは知らず、夢の世界から連れ出してしまう落ちこぼれの少年サイが実にいい。絵は上手いのに字は苦手。想像が勝手にどんどんふくらんでいって、いつの間にかあっちの世界に入り込み……。いる、いる、こんな男の子。いかにもぼうっとした風貌にもかかわらず、頭の中はすこぶる伸びやかに活動しているのだが、彼らが、自らの天駆ける想像力と、逆上がりひとつできない忘れ物常習犯という日常とのギャップに、いかに悩まされ、日々人間的な努力をしていることか! 大器晩成がよしとされていた時代には、たいした問題もなく大人になれたこんな子どもたちを絶滅させないために、世の大人たちも是非このサイ少年を知ってほしい。
今回、画家のかじりみな子さんは、エジプト文明を調べに調べ、ストーリーの躍動感と史実とを見事にマッチさせた挿絵を描いてくれた。「あの場面を描くとしたら、ここからの眺めしかない」と私が現地で考えたとおりの挿絵ができていたのには、本当に驚いた。どんなエジプトマニアの子どもも、満足してくれると思う。
最後にお願い。アテンの正体がわかっても、ほかの人に漏らさないでくださいね。約束ですよ。(もりうちすみ)