悪魔の鏡のかけらが心臓に刺さった少年を救おうと、少女は困難にあいながらもやがて北の果てにある雪の女王の城へたどりつく。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
童話の王さまと呼ばれるハンス・クリスチャン・アンデルセンは、1805年にデンマークのオーデンセで生まれました。つまり今年2005年はアンデルセンの生誕200年にあたります。人間アンデルセンは1875年に亡くなりましたが、彼の書いた童話は時をこえて読みつがれ、というわけで『雪の女王』が、新たな形で出版されることになりました。
アンデルセン童話と聞いて、すぐ思い浮かぶのは『マッチ売りの少女』でしょうか。それから『赤い靴』に『人魚姫』あたりかな。なんだかどれもこれもはかなげで幸薄い女の子のお話ばかりのような気がします。
その点『雪の女王』に出てくる女の子は、積極的でりりしいのです。主人公ゲルダは、たしかにちょっと泣き虫だけれど、愛するカイを取りもどすため、存在も知らなかっただろう広い世界に出て行きます。かけられた魔法から逃れ、山賊にとらわれながらも生きのび、北極の邪悪な雪の怪物をしりぞけて、堂々と雪の女王のお城に乗り込みます。またゲルダのカイ探しに大きな力を貸す山賊の娘は、豪快そのもの。山賊たちをあごで使い、母親のあねごの耳に噛みつき、動物たちをナイフで脅しつける女丈夫で、はかなさなどかけらもありません。そして忘れてはいけないのが、裏主人公ともいうべき雪の女王です。自信も威厳もたっぷりの、これぞまごうことなきクールビューティー。なんたって、キスされたら心まで氷になってしまうのですから。
『雪の女王』は、1844年、アンデルセンが童話を書きはじめてから10年目に発表された作品です。民話のアレンジからはじめ、いろいろと試行錯誤を重ねた作者がたどりついた、一つのピークといえるでしょう。色鮮やかなイメージ、ユーモア、ちょっと下世話な皮肉…。いろんなアンデルセンらしさがぎっしりつまって、でもはかなくなくて勇気にあふれたスケールの大きな物語を、すばらしい挿し絵とともに楽しんでいただければ、幸いです。(木村由利子)