しずかが草を食べていると、セミが落ちてきました。おどろいていると、アリがやってきてセミを運んでいきます。しずかがあとを追ってしげみに頭をつっこむと、そこには、きれいな玉になって朝露がかがやいていました。
「あなたたちは、こんなにきれいなのに、なぜだれにも気づかれないでキラキラしているの?」
「ねえ、セミは死んだら、もううたわないの?」
しずかがきいても、だれもこたえてくれません。
そのあと、今にも咲こうとしている花のつぼみを食べたことを友だちのバッタにからかわれたしずかは、気持ちがこみあげてきて、しみじみと泣いてしまいます。
泣きつかれて眠ったしずかの上を、やさしい風がふきわたっていきました。
目をさましたしずかのところに、友だちのバッタとガマガエルとコジュケイがやってきて、いっしょに〈げんきになるかも〉という歌をうたいます。
1940年大阪府生まれ。高知県で幼少期をすごす。多摩美術大学図案科卒業。1969年より東京都西多摩郡日の出村(現町)に住み、1998年に伊豆に移住。2009年、新潟県十日町の旧小学校校舎を集落の人たちとともに再生し、小学校をまるごと絵本にした「絵本と木の実の美術館」を開館。ブラティスラヴァ世界絵本原画展、講談社出版文化賞絵本賞、小学館絵画賞、絵本にっぽん賞、日本絵本賞など受賞多数。おもな作品に、絵本『しばてん』『ふきまんぶく』『くさむら』『とべバッタ』『オオカミのおうさま』『ふるやのもり』『ガオ』『モクレンおじさん』『ちからたろう』、エッセイ集『人生のお汁』『絵の中のぼくの村』『森からの手紙』、画文集『いのちを描く』、木の実などを使った作品集『生命の記憶』などがある。
「しずか」は、ぼくが飼っていたやぎの名前です。「しずか」はぼくたち家族に、おいしいミルクをたくさん出してくれました。もう40年も前のことですが、「しずか」はぼくの心の中にいまでも生きていて、こうしてまた新しい絵本に登場してくれました。
楽しいことが大好きな子どもたちも、いつも元気はつらつ、というわけにはいきません。ときには、しんみりしてしまう日だってあります。
初めて死について考えたとき、誰にほめられることもない美しさに出会ったとき。そんな体験を、子どもは大人以上に全身で受けとめます。考えても、考えても、答えなんか出ません。でもそれは、とてもだいじな時間にちがいありません。
田島征三さんは、この絵本で、そんな繊細なテーマをユーモアたっぷりに描いています。『とべバッタ』などのエネルギッシュな作風とはまた違った世界に、どうぞふれてみてください。
講演会で、田島さんが読んでくださいました。しんみりしました。人生の深〜いものを感じました。姉は小学1年生の担任をしていて、よく読み聞かせをします。子どもたちにこういうのも読んでもらいたいな、と思い購入しました。(読者の方より)