ひとりで帰るいつもの道で、女の子が不思議ないきものをみつけます。どうやら、自分にしか見えていないみたいです。ある日、思いきって声をかけると、その〝くろいの〟は、台の上からおりてきて、とことこ歩きだしました。ついていくと、へいの穴からもぐりこんだのは、ほどよく古びた日本家屋。そこは、くろいのの家でした。
おしゃべりはしないまま、居心地のいい居間でお茶を飲んだあと、くろいのは女の子を、押し入れの中から屋根裏につれていってくれました。そこに広がっていたのは、暗闇の中にキノコやコケが光る幻想的な世界。ブランコやすべり台で思いきり遊んだあと、ふたりは大きな生きものの柔らかな毛なみにつつまれてぐっすり眠りました。お母さんの夢を見た女の子は、また、くろいのとともに居間にもどってきます。
わかれぎわ、くろいのは一輪の花をくれました。帰り道のとちゅうで、お父さんとばったり会った女の子は、ふたりでなかよく家にむかいます。
ひとりでいるときの子どもの心に優しく寄り添ってくれる不思議な生きもの、くろいの。そのくろいのとわたしの愛おしくなる出会いを描いたあたたかな絵本。
受賞歴:
『トマトさん』や『ねえ だっこして』などでおなじみの絵本作家、田中清代さんによるひさびさの新作絵本です。
女の子が不思議な黒いいきものと出会うお話ですが、この謎めいた雰囲気のいきもの〝くろいの〟がとても魅力的に描かれています。くろいのは、小さな子どもくらいの背丈で、まっ黒な体に大きな目がきらりと光っています。庭に草花がしげる、おもむきのある日本家屋にひとりで住んでいるようです。女の子は、くろいのにまねかれて、その家で驚くような体験をします。
原画は銅版画で制作されていて、細やかに描き込まれた陰影は、子どもがひとりでいるときに日常のすきまで体験するファンタジーに、ゆたかな奥行きを生みだしています。読み進んでいるうちに、女の子とくろいのがどんどん愛おしく感じられるようになる、あたたかな絵本です。
題名や白黒だけの色あいから想像してしまった内容は気持ち良くうらぎられて、内容はとてもほっこりした気持ちにさせられた。きっと遠い昔に、自分にも見えたかもしれない「くろいの」。子供のときの気持ちを、よく表現するための「くろいの」。すてきな本に出会えました。(3歳、6歳、9歳・おばあさまより)
娘がおばけやガイコツのようなものが好きなので、気に入るかと思い購入。家で読むととても気に入り、初日から10回ほど読まされました。お気に入りのページはなんと最後のお父さんが出てくるところ。この不思議な”生きもの”とストーリーが大人も子供も楽しめ大満足です。(1歳・お母様より)
不思議なお話でした。子どもにだけ見える、感じる世界が楽しいですね。最後には現実に戻ってきますね。ちょっとホッとするところでしょうか。「くろいの」見ているとちょっと不気味だったのがかわいらしく見えてくる、ふしぎ。(40代)
書名と表紙にひかれて、久しぶりに絵本を自分のために買いました。どのシーンもいつか見たことがあるような懐かしい気持ちになりました。大切にします。(50代)