生物多様性の海として知られる辺野古・大浦湾。山から海をめぐり、豊かな環境で暮らす生きものの姿と、それをつなぐ水の旅を捉えた写真絵本。
受賞歴:
潮が完全に引く1時間前、ウエットスーツを着こみ、望遠レンズをつけたカメラをかまえて、大浦川河口の干潟の上に腹ばいになる。干潟が完全に干上がる時にだけ砂穴から外に出てくる、ミナミコメツキガニの食事風景を撮影するためである。かれらは警戒心が強く、こうしてじっと動かずにシャッターチャンスを待たなければ、巣穴に入りこんで出てこなくなってしまう。
潮が引ききった干潟に、山から顔を出した太陽の光がさしこむ。光沢を帯びた湿った砂がかわき、褐色から薄茶色へ変化した時、数千匹のカニたちが、いっせいに干潟の上を埋めつくしていった。
その瞬間、背後からやってきた数人の子どもたちが干潟の上をかけずりまわり、つぎつぎとカニたちを巣穴の中に引っこめていった。この瞬間を撮るために何回も東京からかよい、長時間チャンスを待った私は、がっくりと肩を落とした。
しかしすべてのカニを巣穴に引っこめ、満足げな笑みをうかべる子どもたちを見ていると、そんな撮影の苦労なんぞ私はどうでもよくなった。それどころか、大浦湾のほのぼのとした日常の光景を心のシャッターにおさめられた喜びに自然と笑みがこぼれていた……。
実はこのできごとが、この写真絵本の方向性を大きく変えていくきっかけとなりました。辺野古・大浦湾をとりまく豊かな海を世界中の人々に向けて発信したいという当初の思いから、地元にくらし、未来をになう子どもたちにこの海のことを忘れてほしくない、という思いにかわっていったのです。
話題の辺野古の海を舞台にした写真絵本ですが、むずかしい話も出てきませんし、とりわけ希少価値の高い生きものの記録書でもありません。
地元の子どもたちがいつも見て、感じて、たわむれている、当たり前にひろがる大浦湾の自然をクローズアップしています。
雨の一滴一滴、砂の一粒一粒、落ち葉の一枚一枚に宿る命を感じつつ、生物多様性の海、辺野古・大浦湾にひろがる風景をご覧ください。
「新基地」建設で護岸工事が進んだ辺野古大浦湾の美しい自然がきれいな写真で見られることがうれしいことです。基地建設は絶対にやめるべきだと改めて強く思いました。偕成社がこの本を出版してくれたことに感謝です!(64歳)