だいすきなもの、なぁに? ネパールのこどもたちに聞きました。どこか懐かしい風景の中に、こどもたちの笑顔が広がる写真絵本。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
午後4時ちょうど。大きなベルの音が、村中に響きわたります。授業の終わりを知らせるその音を合図に、学校からこどもたちが次から次へと飛び出してきて、村の真ん中の一本道に長い列を作ります。はじめはみんな揃いの制服姿が続き、途中からは別の小学校のこどもたちも加わり、にぎやかな色の列となります。
丘の上の集落へと帰って行くこどもたちは、途中小川にかかる小さな橋を渡ります。大きな兄さんや姉さんは家での手伝いもあるから、たいていまっすぐ家をめざすのだけど、小さなこどもたちは決まってその橋で道草をします。
川の中を覗きこむ。石を投げこむ。葉っぱで作った船を浮かべる。橋からつばをだらーん。そんなこどもたちの姿を眺めるのが好きで、僕は4時になると決まってこの橋のそばに腰をかけてのんびりとすごします。
ここはネパール・チャウコット村。首都カトマンズから東に30キロ、丘を越えたその先にその村はあります。この村のこどもたちの顔を見ていると、なんだかどうしても聞いてみたくな
ることがあります。 「みんなのだいすきなものはなに?」
「牛が好きです。だってミルクもバターもヨーグルトもみんな牛がくれるから」
「地面が好き。地面がないと、歩くことだってできないんだもん」
「踊ること、唄うこと、勉強すること、書くことが大好きです」
「私はお母さんが大好きです。仕事につけるように勉強をして、新しいお家を買って、一緒に暮らすの」
思い起こせば、僕も家になかなか帰り着かないこどもの一人でした。ちょっと歩いては道草して、またちょっと進む。気が付くと日が暮れていて、よく母に叱られたものです。毎日同じ道を行って帰るだけなのに、一度も飽きたことはありません。その日その日で目に飛び込んでくる景色が違えば、その日その日で気になることがありました。大好きなものがそこらじゅうに転がっていて、僕の周りの世界はまるで宝箱のようでした。
この絵本を開いて、ネパールチャウコット村のこどもたちの宝箱を覗いてみてください。(公文健太郎)