ムニャムニャゆきのバスが、ムニャムニャめざしてやってきました。なにかがおりるとブザーがなります。長さんワールド全開!!
1927年、東京生まれ。1959年「おしゃべりなたまごやき」で文藝春秋漫画賞受賞、1981年「キャベツくん」で絵本にっぽん大賞受賞、1984年「ぞうのたまごのたまごやき」で小学館絵画賞などを受賞。絵本の作品に『ゴムあたまポンたろう』『ノコギリザメのなみだ』『ごろごろにゃーん』『キャベツくん』『ちへいせんのみえるところ』『くもの日記ちょう』『クーくん ツーくん』『おばけのいちにち』『ながいながいすべりだい』『まるでてんですみません』『ムニャムニャゆきのバス』など多数ある。絵本のほか、漫画、挿絵、装丁、イラストレーションエッセイなど幅広い分野で活躍。2005年没。
この絵本は、長さんとの始めての仕事だ。16年前であるから1991年、私はやっと絵本の編集者としてかけ出しである。当時、ほるぷ出版がこの絵本のシリーズを「イメージの森」と題し、あの荒井良二のデビュー作「ユックリとジョジョニ」、スズキコージの「サルビルサ」他に飯野和好、井上洋介など大好きな作家が参加してくれた。まだまだ絵本のことが好きというだけで、なにもわからないままの編集であったと思い出す。その一冊が今回の「ムニャムニャゆきのバス」である。
当時のことを思い出すと。長さんは「絵本を考えるとき、思いつく限りの出来るだけ過激なものを考え、そして余分なところ過剰なところを、そぎおとして商品としての絵本にする」というようなことを言っていた。でもこの「ムニャムニャゆきのバス」はできるだけ過激なところを残して自由に作ってみたい。というようなことを言っていたのを覚えている。当時私はその意味がわからなく、長さんがんばってくれるのだな。と、ただただうれしがっていたのだ。 長さんのナンセンス表現の真骨頂である、画面全体はオレンジ。印刷で原画そっくりに表現するには、一番難しい色だ。でもそのオレンジが開けば目の中に飛び込んでくる。そして黄色いバスから、なんだかいろんなものが降りてくる。バスは「ベエー ベエー」とブザーの音をさせるだけ。ページを開くたびに読者はナンジャラホイとなる。が、それがおもしろいのである。このナンジャラホイに身を任せていると。何か子どものころから、体のどこかにひっそりと隠れていた、何か、あえて言うなら、ナンセンスの根源的なもの、が目覚めてくる。そしてこのことは本来私たちみんな、子どものころから体にもっていたものを、呼び起こしてくれる気がする。 この絵本を子どもの全てが喜んでくれるとは決して思わないが、この絵本を本当に体で理解し、体全体で喜んでくれる子どもがいたら、それはとてもうらやましくて、私は嫉妬に狂いそうになる。(編集者・土井章史)