卵から出てきたのは、なんと鳥のヒナ。驚きながらも現実を受け入れ、子育てに奮闘するワニの姿を描いたロシアの素敵なおとぎ話。
1954年生まれ。モスクワ大学ジャーナリズム学部卒業後、雑誌編集部に入り、10年間にわたって自身のラジオ番組のパーソナリティーをつとめる。現代芸術大学のジャーナリズム学部でも、10年間ほど創作の方法を教える。アニメーションのシナリオを手がけたり、テレビ用ドキュメンタリーフィルムも創る。ネパール、ヒマラヤ山脈、日本などへの旅行記も書いている。その作品は「世界の児童文学アンソロジー」にも収められ、「20世紀の児童文学」事典にも登場する、現代ロシアを代表する児童文学作家の一人。
1961年生まれ。スヴェルドロフスク(現エカチェリンブルグ)の芸術学校を卒業した後、モスクワ国立映画大学でアニメ制作を学ぶ。卒業後のスヴェルドロフスクアニメスタジオに入り、テレビ番組「おやすみなさい、子どもたち!」のオープニング・タイトルのイラストをユーリー・ノルシュテインと共作。また、ユーリー・ノルシュテインのアニメーション「外套」の制作に2年ほど加わる。アニメーションの監督作品には「ばら色の人形」「茶房」「ザリガニの話」など。絵本に『ハリネズミと金貨』『ワニになにがおこったか』がある。
★刊行時に寄せられたメッセージです
今ごろは書店に並んでいるはずのこの本を読んで、読者のみなさんはどんな感想を持たれるでしょう。これは愛についての話だ、と思う人もいるかもしれないし、不思議な奇跡の話だ、と言う人もいるかもしれません。幼い読者はハッピーエンドの話と感じることが多いでしょうが、お父さん、お母さんの中には、本当にそうだろうか、と思う人もいるかもしれません。
『ワニになにがおこったか』はストーリー自体はとても単純なのに、その解釈をめぐって出版にかかわった人の間でも意見が分かれるような不思議な本なのです。幸い挿絵を担当されたオリシヴァングさんとは、なんとか意見がまとまって本の形にすることができましたが、訳者としては最後まで迷うところの多い仕事でした。
けれどもその難しさは、このお話が単なるお伽噺ではない証でもあります。どちらも捨てきれないような相反する欲求と共に、この世に生を受ける生きものの悲しさ。それがこの物語のテーマだと私は考えていますが、それらに引き裂かれる者を救うヒントもまた、この物語には描かれています。
美しいラストシーンが存在しない世界。それが作者の探しているものだと思うのです。(田中 潔)