見かけはカラがある、なしの違いのナメクジとカタツムリ。ナメクジの祖先をたどると? ユニークな視点で描いたナメクジの絵本。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
ナメクジは、太古の昔、カタツムリの1グループが徐々に殻を小さくしていって、今日の姿になった。ナメクジの進化は、現在、そう考えられている。そして、この絵本は、そのナメクジの進化をもとに、僕の想像をまじえながら描いたものである。
通常「進化」というと、今までの身体に新たな機能をそなえたり、特性を発達させるといった、「加える」というプラス的変態が主である。キリンの首やゾウの鼻、強力な毒を身につけた生物がそれだ。一方、ナメクジは、殻を「捨てる」というマイナス的変態だ。しかも、その殻は、外敵や寒暖から身を守る、唯一の武器であるのに…。
しかしながら、そこには「未知の世界への進出」という壮大なロマンがあった。
カタツムリは、石灰岩を好む。つまり、彼らは殻を作るために、多くの石灰分(カルシウム)を必要とする。それが証拠に、山口県の秋吉台や高知県の龍河洞、岐阜県の金生山といった石灰岩域には、多種にわたる多くのカタツムリが棲息している。
ところが、殻を捨てたナメクジにとって、もはや石灰分は無用の長物。そう、彼らは、背に負う「殻」というしがらみを捨てることで、石灰分という呪縛から解き放たれた。
「井の中の蛙」ならぬ「石灰岩域のカタツムリ」。そして、そこからの脱却。ナメクジの「殻を捨てる」という戦略には、未知の世界への進出という壮大なロマンがあったのだ。
一見、無欲にも見えるナメクジだが、意外にも、フロンティア精神に富んだ野心家なのである。とはいえ、殻を捨てた代償は大きく、日陰での生活を余儀なくされている。
でも、野心家のナメクジのこと。日陰で沈思黙考、次の戦略を着々と練っているに違いない。まさか、もう一度、殻を持とうなんて考えてるんじゃないだろうな…。(三輪一雄)