





ひさこちゃんは熱があって、寝ていなければなりません。でも、おふとんには、熱のある子にしか見えない秘密があったのです。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
このお話は、幼いころの思い出がもとになっています。
熱を出して寝ていたわたしの枕元で、母が「ほら、こびとさんのおうち、ここと、ここと、こっちにも」と、かけぶとんのふちをちょい、ちょいと、つまんでみせました。すぐにふとんから抜け出そうとするわたしを、何とか寝かせておこうとしたのでしょう。このささやかな一場面が忘れがたいものになったのは、おそらく母が、こう言い添えたからです。「おかあさんはね、小さいころ、病気ばかりしてたのよ。何日もおふとんの中にいなくてはならなくて、そんな時、こうして遊んだの」。
わたしは病弱な女の子だった母を思い浮かべ、その女の子にふしぎな親しみを覚えました。わたしと同じように病気になって、退屈していた女の子。その子と遊んでいる空想をしながら、ふとんカバーに凹凸をつけていくと、ほんとうに山や家が見えてきて、ふとんが広々とした大地に見えたのでした。
この絵本には、ほとんど言葉がありません。はじめてお話を書いた時から、言葉は残さずに、でくねさんの絵でお話を語っていただこうと考えていたのです。不安はありませんでした。白いふとんカバーにこびとの姿が浮かんできたように、白い紙にでくねさんのこびとたちが浮かび上がってくるのを、ひたすら楽しみに待ちました。待ちに待ったこびとたちの、生き生きとして、個性豊かなこと! 一人一人にお話ができそう、と思ったら、さすがでくねさん、すでに愛らしいエピソードがいくつも、絵の中に描きこまれているではありませんか。見るたびに発見があって、わたしは歓声をあげてばかりでした。
この絵本を、たくさんの人に見てもらいたいと思います。そして、病気になったり熱を出した子どもたちが、この絵本を見て、退屈な時間がちょぴり楽しくなったり、不安な気持ちが少しでもやわらいでくれたら、こんなうれしいことはありません。(おちのりこ)