夢のお告げにしたがって、貧しい男は宝物を探す旅に出た。『よあけ』他の作品で知られる作家の1980年コルデコット賞銀賞受賞作。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
ユリ・シュルヴィッツは1935年ポーランドのワルシャワで生まれ、4歳のときから第2次世界大戦の戦禍を避けて各地を転々としながら育ちました。 1949年に一家でイスラエルに移り、教員養成学校で学ぶかたわら絵も本格的に勉強します。1959年には単身ニューヨークに渡り、絵画学校で学びながら、ヘブライ語の本に挿し絵を書き始めます。そして、1963年に初めての絵本を出版。現在までに35冊以上の本を出し、そのうち12冊は自ら文も書いています。2005年には、12世紀半ばにスペインからヨーロッパ、アジア、アフリカを14年かけて旅した実在のユダヤ人の旅行記をもとにした絵物語を出版しました。
『たからもの』は1978年の作品で、シュルヴィッツの代表作『よあけ』(1974年)とともにわたしの大好きな絵本です。この2冊はよく見ると、いくつか共通点があるように思われます。『よあけ』は中国の唐の詩人の詩をモチーフにしているそうですが、『たからもの』も世界のあちこちで語り継がれてきた「橋で宝物を見つけなさい」という夢を見る話をもとにしているようです。また、文をぎりぎりまで短くして絵にストーリーのほとんどを語らせているところや、絵の大きさを様々にかえて余白を効果的に使っているところも同じです。
『たからもの』の世界には、暖かい光が広がっているように見えます。家のなかにも、都の空にも。それは『よあけ』の最後のページの色合いに似ています。いま考えると、わたしがこれを訳したいと思ったのは、この暖かい色に引かれたからだったような気がします。『たからもの』は黄色ともオレンジともつかない淡い光でわたしを遠い世界へ、夢とも現実ともつかない世界へといざない、安らぎを与えてくれる絵本です。(安藤紀子)