アフリカ最奥部のジャングルを流れるコンゴ河。著者は21年の時を隔てて2度にわたり、この大河を下る長い旅に出た。ある時は、5千人にも達する人々が船の上でひしめきあって生活しているという幻の船「オナトラ船」に乗りこみ、その混沌とした驚きの情景とパワーに圧倒される。ある時は丸木舟を漕いで河辺の村々の暮らしに触れ、雄大な自然の中に生きる人々の知恵や死生観を思う。それは「慣れ親しんだ物の見方を根底から覆してあまりある強烈な体験だった」――。予測不能で、矛盾と不条理だらけの道程に怒ったり笑ったりしながら「人間が生きるということ」を否応なしに考えた、過酷にして愉快な旅の記録。クスリと笑ってしまうびっくりエピソードから、コンゴの歴史や紛争についての考察など、硬軟とりまぜた充実の内容。豊富な写真つき。
1960年、東京生まれ。作家・翻訳家。慶應義塾大学経済学部卒業。科学ライター等を経て、1990年から1997年までエジプトに在住。アフリカ・中東各地を多様な視点から取材・旅行する。著書に『アフリカ旅物語』(北東部編・中南部編、凱風社)、『ある夜、ピラミッドで』『孤独な鳥はやさしくうたう』(ともに旅行人)、『美しいをさがす旅にでよう』(白水社)、『ひとはどこまで記憶できるのか』(技術評論社)など、訳書にグラハム・ハンコック『神の刻印』(凱風社)、ハニー・エル・ゼイニ『転生者オンム・セティと古代エジプトの謎』(学研)など。
恥ずかしながら私の貧しい知識では、「コンゴ(1997年までザイール)」といえば『ドラえもん のび太の大魔境』の舞台だ、ということが真っ先に頭に浮かびます。あるいは著者の若い相棒・シンゴ君がいったように、ディズニーランドの「ジャングルクルーズ」の世界! そう、「ジャングル探検」ときいて私たちが漠然とイメージする風景こそ、この旅行記の行き先なのです。
……なんてことを言うと、著者の田中さんをがっくりさせてしまうでしょう。なにしろ田中さんは、本物の「ジャングルクルーズ」をして(それも2度にわたって!)、身も心もボロボロになりながら(!?)「慣れ親しんだ物の見方を根底から覆してあまりある強烈な体験」をしてこられたのですから。
その道程はまさかと思うような抱腹絶倒エピソードの連続です。しかしそれは同時に、思い通りにならない厳しい状況だからこそ「ここにある今をしのぎを削ってリアルに生きる」人々の死生観を感じる旅でもありました―—。「旅」や「異文化」といった言葉にピンと来る方には絶対お薦めの本。硬軟おりまぜた濃い内容に、笑いながらも考えるところの多い読書体験ができるはずです!