

3年半ぶりに再会した『コソボの少年』のザビット一家。質素ながらも着実に生きる家族の姿をとらえた写真集。モノクロ写真58点。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
2003年夏、コソボを訪れました。1999年と2000年に続く三度目の取材となります。私がコソボの取材を続けているのはクラスニーチェ家の人々との出会いがあったからです。出会った頃のかれらは、セルビア治安部隊の虐殺を恐れて山にかくれ、「あと一週間戦争が続いていたら、餓死していたかもしれない」状態でした。故郷の村にもどると、家も家財もすべてが焼かれたあと。そんななかで家族がおたがいに支えあって生きる姿、モノに執着しないサバサバした生き方に惹かれました。
コソボの戦争が終結して4年が経った今回の訪問では、戦火で焼けた家は建てなおされ、町は活気をとりもどしていました。クラスニーチェさんの家にも変化がありました。家長ハッサンの次男ザビット(43歳)の一家が、外国のNGOの支援をうけて、新しい家をつくりはじめていたのです。小さな子どもも一緒になって、一家総出で家づくりに励む姿は、コソボの再生を象徴しているように思えました。
父親のザビットは工場をリストラされ、満足な収入もありませんが、子だくさんの一家はなんとも楽しそうです。この撮影行の間にも8人目の子供が生まれ、ザビット一家は10人家族になりました。赤ん坊は、私の名前「ヒロミ」と、アルバニア語で「平和」を意味する「リアロニ」とをかけあわせて、「ロニー」と名付けられました。子どもたちはみんな個性豊かで、小さな頃からおてんばで、いつもじっとしていないセブダイエ、だれよりもおませでお父さんの真似ばかりしているワンパク小僧のベジール、そのお兄ちゃんたちや妹たちも、笑ったり泣いたり、働いたり遊んだり、とにかく元気いっぱい。はじける笑顔が、こちらまで幸せな気持ちにさせてくれます。
人が生きぬいていくために大切なものが、この家族を通して見えてきたようにも思えます。ザビット一家の愉快でパワフルな暮らしぶりと再建に向かうコソボを伝えたいと思います。(長倉洋海)