

鯨を追い、鯨をしとめ、そして解体する。寒さに凍える南極海で、鯨を捕る人々の姿を丹念に追いつづけたフォトドキュメント。
受賞歴:
★刊行時に寄せられたメッセージです
私が捕鯨船に同乗取材してから24年、そして、商業捕鯨の一時停止からは20年が過ぎ、近年では鯨肉の味や「捕鯨」という言葉自体わからない子どもも、少しずつ増えてきました。そこで、今いちど「捕鯨」とは何かを伝え、考えてもらうきっかけになればと、1982年から1984年にかけて取材した南氷洋での商業捕鯨現場の写真をまとめました。
鯨は、地球上で一番大きい哺乳類として知られています。昔から、この鯨を海の幸として大切に食べてきた民族が世界中にはいくつもあり、私たち日本人も鯨を食べてきました。
思えば、私が初めて本物の鯨に出会ったのは1973年、グリーンランドでのことでし た。海沿いの村の沖で、潮を吹き上げる姿を見たのです。グリーンランドのイヌイットの人たちは、大きな鯨を海の神としてあがめ、恐れ、祈っていました。そして、その肉を海からの大きな恵みとして感謝して食べていました。捕った肉は村のみんなで平等に分けます。野菜がとれない土地に住む彼らにとって、新鮮な内臓に含まれるビタミン類は健康の源です。肉はもちろん、皮から内臓、油まであらゆる方法で食べ、利用しつくしてしまう所は日本人とそっくりでした。捕鯨船の同乗取材の最終日、鯨捕りの男たちの日焼けした黒い笑顔と、イヌイットの人たちの人なつこい笑顔がだぶって仕方ありませんでした。
鯨は今、84種類(ヒゲクジラ類13種、ハクジラ類71種)という多くの種類が確認されています。「鯨が絶滅しそう。」と言っても、危険なほど減少している種類もあれば、自然界のバランス上、増えすぎている種類もあるといいます。現時点では、将来、商業捕鯨が再開されるかどうかわかりませんが、鯨の生態と生息数を調べ、その上で、冷静な判断をすることが必要だと思います。
生命を食べること、そして生命を守ること。私はこの矛盾する難題を、これからも考え続けていこうと思っています。(市原 基)