取材日記

アフマドに出会うまで

2016/06/20

今回の取材日記は『エジプト』です。写真家の常見藤代さんとエジプトの出会いは運命的。はじめて首都カイロに着いたその日にはもう「ここに住みたい!」とピンときたといいます。それから20年以上、エジプトを撮影しつづけてきた常見さんですが、今回の取材にあたっては、またさまざまな苦労があったようです……!


砂漠やピラミッドのイメージが強いエジプトですが、国民の多くは農民です。このお話をいただいたとき、農村の子供を取材したいと思いました。その子の家に滞在しながら。

暮らしながら取材するのが、私のモットーです。相手の生活のすみずみまでいっしょに体験し、深く知りたいと思うからです。2003年から今まで、エジプトの砂漠で一人で移動生活をしている遊牧民女性と暮らして、取材してきました。

「イスラム社会を女性が取材するのはたいへん」。そう思われているかもしれませんが、じつはまったく違います。男女隔離が徹底しているイスラム社会は、学校も結婚式も男女別。外国人男性が女性の場に入りこむことは難しいけれど、女性ならたいてい男性女性両方の場で歓迎してもらえます。さらにレディーファースト。混んでいる駅の切符売り場などでも、女性なら割りこみもOK。女性は公共の場でも優遇されています。

ただ短期間でもいっしょに暮らすとなると、受けいれてくれる家庭を見つけるのはかんたんではありませんでした。よその女性が家のなかに長時間いるのは恥ずかしい、というかたもけっこういるからです。そもそも農村の人たちは、外国人に慣れていません。

また2011年の革命後は各地で爆発事件が起きたりしたため、外国人、とりわけカメラを持った者への警戒心や風当たりが強くなっていました。村の市場で写真を撮っていたら不審者あつかいされ、警察に数時間、拘束されたこともあります。

学校に出向いて先生に紹介をおねがいしようとしましたが、エジプトでは政府の許可がなければ、取材はおろか、学校に入ることもできません。とくに革命後は児童の誘拐事件も起きたりして、よりいっそう警備がきびしくなっていました。

そんななか、主人公探しをおねがいしていた知人から、条件に近い子が見つかったとの連絡が。カメラマンとしては、「実際に会ってみないと、取材するかどうか決められない」などと思っていましたが、「子役」としてテレビに出演しそうなイケメン兄弟に、たちまち目がハートになってしまいました。

「冷蔵庫を勝手にあけて、いつでも食べたいものを食べなさい」。そんな言葉を私にかけてくれる、あけっぴろげでふところが深い両親のもと、取材がスタートしました。しかし学校取材の許可は、なかなか下りませんでした。

カイロの役所に出向いておねがいし、「来週に出る」といわれ、翌週いってみたら「まだ。来週だ」。そんなことのくりかえし。両親が校長に取材をおねがいしにいったり、役所に同伴してくたり、私といっしょになって奔走してくれました。

当初の滞在期間2週間をすぎても許可が下りず、さらに2週間延長したものの、それもあやしくなってきました。一時は学校取材はあきらめ、校舎の外観や、子供が校門から出てくるシーンだけでも撮ろうと、学校の門番におねがいするも、答えはノー。「なかに入るわけじゃなく、外から門のまえで撮るだけ」といっても、ノーの一点張りです。

学校は、その子が一日の大半を過ごす場所です。その撮影ができなければ、本はなりたちません。外に出れば、外国人がめずらしい村の人に、宇宙人を見るような眼で見られ、スパイあつかいされる。さきが見えないなかで思うように写真が撮れず、精神的につらい毎日を過ごしました。ようやく、1か月近い滞在期間の最後の最後になって、なんとか許可が下りました。

実際に学校にいってみると、子どもたちはエジプト人らしい明るさと人なつこさ、愛嬌にあふれていました。一人の子に「私の名前を日本語で書いて」と請われて書いてあげると、次から次へとおねだりされて、とうとう全員の子の名前を日本語で書くはめになったり。

撮りたくても撮れなかった時間が長かったこともあり、いざ学校取材がはじまると、クラスじゅうの子どもの写真をバシバシ撮りまくりました。アフマドのお父さんに「アフマド以外の子も、たくさん写ってるなあ」なんて、やきもちを焼かれてしまいました。

(写真・文 常見藤代)

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常見藤代

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1967年群馬県生まれ。写真家・作家。上智大学法学部卒。2003年よりエジプトの砂漠で1人で遊牧する女性サイーダとくらし、全国各地で写真展、講演会を開催。2011年「第9回開高健ノンフィクション賞」最終選考ノミネート。2012年「第19回旅の文化研究奨励賞」受賞。著書に 『女ノマド、一人砂漠に生きる』(集英社) 『砂漠のサイーダさん』(福音館書店) 『ニワトリとともに』(農文協) 『女ひとり、イスラム旅』(朝日新聞出版)などがある。

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