
きょうの取材日記はケニアの子どもを撮影した桜木奈央子さんです。ケニアでは小さな村でもみんなが携帯電話を持っていて、今回の取材でも携帯が大活躍したようです。そんなケニアの様子をお話していただきました!
この本の取材のために、わたしがケニアのジョモ・ケニヤッタ空港からまっ先に向かったのは、ナイロビの携帯電話ショップだった。ケニアでの生活に携帯電話は欠かせない。
電気のない地域に入ることを想定して、バッテリーが長持ちするというノキアの古い型の携帯電話を、日本円にして1,800円で購入した。そして、さっそくあちこちに電話をかけて、本の主人公さがしをはじめた。
おしゃべり好き、うわさ好き、世話好きの、ケニア人の口コミパワーはすごい。携帯電話を買ったその日のうちに、たくさんの情報が集まった。「その本にぴったりの子どもがいるよ」「友人のいとこを紹介しようか?」「叔父が学校の先生をしている」などなど。そのなかでいちばんピンときた情報を頼って、ケニア西部の町キスムに向かった。
「10才の男の子で、ビクトリア湖畔の村に住んでいる。お父さんは漁師」という少年に会いにウソマ村に入った。少年の家に着いて父親のセバスチャンにあいさつをする。誠実そうな人でほっとした。「ようこそ、ウソマ村へ!」。10才だと紹介された少年オモロは、実際には7才だった。アフリカの多くの人は、年令に無頓着だ。その人がどこに住んでいてどんな人物かなど、具体的な情報のほうが重要らしい。
わたしは少しがっかりした。今回の企画では10才前後の子どもをさがしていたので、オモロは幼すぎる。そのときふと目にとまったのが、オモロの姉であるアティエノだった。年令をきくと、10才だという。アティエノの好奇心いっぱいの瞳が決め手になり、主人公が決定した。
まき拾い、牛の世話、水くみ……。アティエノはいつもかけまわっていた。わたしは写真を撮るために追いかけるのだが、どこにいるかわからないこともあった。そんなとき、村のだれかの携帯に電話をして「アティエノを見なかった?」とたずねると、必ず居場所がわかるのだった。
取材が終わり日本に帰るときには、わたしの携帯電話のアドレス帳は村の人の電話番号でいっぱいになっていた。お父さんのセバスチャンが別れぎわにいった。「日本からいつでも電話してきてくれ。アティエノも待っているから」。
この本が完成したことを伝えるために、ひさしぶりにウソマ村へ電話をしてみようと思う。
アティエノたちの声をきくのが、とても楽しみだ。
文・桜木奈央子
桜木奈央子さんによる、世界のともだち⑧『ケニア 大地をかけるアティエノ』はこちら。